ふくいんのあしおと6 | ナノ





ふくいんのあしおと6

「別れないからな」
 和信はその言葉に溜息をつく。
「その話は……頼むから次の休みにして」
「嫌だ。おまえが頷いてくれないと」
「頷くわけないだろ」
 和信は押さえつけられた腕を動かそうと試みた。だが、敬也の拘束はきつい。
「敬也、結婚したくないのにするのは間違いだ。それに相手の人にも俺にも不義理になる」
 敬也の腕の拘束が少し緩む。それから彼は腕を放すと和信の左頬を殴った。一瞬、何が起きたのか分からず、和信は彼を見上げた。すぐにもう一打がやってくる。
「絶対、別れないからな」
 独白した敬也は手を休めない。殴打は顔から腹へ移動していた。和信は体を丸めた後、起き上がって寝室から出ようとした。すぐに彼がうしろから羽交い締めにしてくる。
「放せよ、おまえ、どうかしてる!」
 口の中に広がる血の味に和信は泣きそうになる。身長差は十センチ程度だが、和信が体を動かしても敬也の腕はびくともしない。そのままベッドへ引きずられ、投げ出された。逃げようとすると、すぐに彼が覆い被さり、手を上げる。
「いってぇな、やめろってば!」
 和信が本気で手足をばたつかせると、腕が敬也の顔に当たる。彼の動きが止まり、和信は足で彼の腹を蹴ろうとした。失敗に終わったのは、彼が和信の鳩尾を思いきり殴ったからだった。息が詰まるほどの衝撃を受けて、和信は涙を流す。下着しか身につけていなかった和信の体は何度も殴打にさらされた。
 鳩尾に入った一発が重過ぎて、和信はその後ほとんど抵抗できなかった。数度殴られた頬は腫れていた。自分を見下ろしている敬也は肩で大きく呼吸しながら、ようやくベッドから下りる。ここまでの暴力を振るわれたのは初めてだった。
 今日はまだ仕事があるのに、と和信は体中の痛みと戦いながら、起き上がる。部屋を出て、友達の家へ行くつもりだった。和信は交友関係が広く、一泊程度であれば、突然であっても泊まらせてくれる友達が何人かはいる。
「っな、何……」
 起き上がった和信の両肩を押さえた敬也の手は熱い。口を開くと、くちびるの端が痛んだ。彼は和信の両腕をまとめると、再びベッドへ押さえつける。右手が下着の上からペニスへ触れた。何をされるのか分かり、和信は痛みに構わず必死に体を動かす。
「け、敬也っ、何考えてんだよ、やめろって!」 
 足を動かして、敬也の体を蹴ろうとしたが、左頬へ食らった殴打に思考が停止した。自分は夢を見ているのだと思った。彼はセックスをする時に乱暴をしたことなど一度もない。抵抗していないのに、もう一度、顔を殴られる。しばらく天井を見ていると、大きな音を立てて、彼が掃除機を運んできた。コードを伸ばして、手首へ巻きつけてくる。
 敬也の瞳と同じ瞳を昔、見たことがある。嫌な思い出がよみがえった。和信は目を閉じる。母親が女を強く主張し始めたのは、あるできごとがきっかけだった。金銭的に頼られることで、自分は彼女からの許しを請うている。敬也と同じく、親にゲイであるという告白は一生できない。和信の目尻から大粒の涙があふれた。
 敬也は和信の口へガムテープをはり、下着を脱がせた。和信が怯えて目を開くと、彼は猛ったペニスをアナルへあてがう。まだ何も準備していないそこは、固く閉ざされている。
「っ、ウゥ、んーっ」
 和信が首を振り、涙を飛ばした。
「頷いてくれるまでする。俺が結婚しても、おまえだけはそばにいて、ちゃんと俺のこと受け入れてくれ」
 潤滑ジェルで解さなければ、和信だけではなく、敬也にも痛みを伴うはずなのに、彼は無表情なまま、ペニスをアナルの中へ押し進めた。和信が涙を流しながらうめいても、彼はしっかりと和信の腰をつかみ、奥まで突っ込んでくる。貫かれる痛みにつま先まで入っていた力が急速に抜けた。
「約束しろ。俺のためにそばにいてくれるだろ? 俺のこと、愛してるよな?」
 上半身を傾け、敬也が和信の耳元でささやく。だが、今はどんな言葉も耳に入ってこない。舌打ちした彼は、わざと大きく腰を動かした。
「っん、ぅううっ、う、ぐ、んっ」
 引き裂かれるような痛みに耐えかねて、和信は敬也に話しかけられるたび、人形のように首を縦に動かした。

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