karuna 番外編3
鞭打ちで済めば楽だと思えるようになったのはいつからだろう。トキは裂けた皮膚の間からじくじくと感じる痛みに慣れてしまった。辛いのはペニスに荒縄を巻かれたり、アナルを傷つけられる時だ。小さくせき込むと、口の中に血の味が広がった。
きつい酒や即効性のある媚薬を飲まされ、喉はすっかり傷んでいた。常に拘束されている手足のせいで、トキの体力は大幅に落ちた。光のない世界で、足音に怯えながら生きるのは苦しい。足音を聞くたびに、今日はどんなひどいことをされるのか、と体が震え涙があふれる。精神がおかしくなってしまうような状況の中で、トキはひたすらハルカのことを考えた。
だが、ハルカに抱き締めてもらえることを夢見ていたトキも、半年という時間が経ち、しだいに希望を持ち続けることの難しさに気づいていた。すべて納得した上で、ここにいるはずだ。それでも一度、生じた思いを消し去ることはできない。
もしかしたら、ハルカは自分のことをいらなくなったのかもしれない。ハルカのことをヒイロの森まで連れていった。自分はただの同行者であり、ハルカにとってはそれ以上の存在ではなかったのかもしれない。
トキはぎゅっと拳を握ると、両足に力を入れた。手を動かしながら、壁を探す。ハルカに会いにいって、確かめなければならない。トキはそう思った。いつまでも、ただここにいるだけでは、ハルカの役に立っているのか、立っていないのか、分からない。ハルカに会いにいかないといけない。会いにいきたい。会いたい。
その思いだけで、トキは全身の痛みをこらえて、立ち上がり、壁を触りながら扉へと近づいた。扉を開けても、誰もいないのか、人の気配はない。トキはゆっくりと、国王の寝室内を歩いた。もっとも、トキはそこが国王の寝室だとは知らない。壁に指先を当てながら、扉を探す。
「……っあ」
体がぶつかる。物にではない。
「従順だと思っていたが、間違いだったな」
国王の手がトキの細い首をつかんだ。そのまま持ち上げられ、苦しさからもがいたが、逃れる術はない。
「これだけ痛めつけても、狂わなかったのはおまえだけだ」
体を押されて、床へ倒れたトキは酸素が肺へ入る感覚にせき込んだ。
「おまえは最高だ」
国王が笑っているのが分かる。反射的にトキの体は震え始めた。彼はトキの拘束されている足をつかむと、引きずりながら奥の部屋へと連れ戻す。
「学園一と言われた精霊使いが、今や性奴隷以下だ。不当な扱いを受けている精霊達を助けていたらしいな。笑わせる。おまえは助けたのに、誰もおまえを助けてくれない」
台座の上でうつ伏せにされ、腰を何かで固定される。トキは何も聞きたくなくて、拘束された手で必死に耳をふさごうとした。国王のペニスが傷ついたアナルへ押し入ってくる。国王はトキを犯しながら、「助けを呼んでみろ」と哄笑した。やがて、彼は耳元でささやく。
「おまえはもう誰にも必要とされていない。だから、ここへ来たんだ」
歯を食いしばっていたトキは、大粒の涙を流す。巨大な孤独がトキを黒く染めていく。足首に何かが当たった。
「誰もおまえを助けに来ない。そして、おまえはどこにも行けない」
ハルカ。
ハルカ、ちゃんと役に立ったら、またここへ来てもいいですか?
あの時、ハルカは、「……好きにしろ」と言っていた。足がなくなっても、腕があれば這ってでも行ける。足首に感じた熱さと痛みにトキは声を上げた。反対の足首にも同じ熱さと痛みを与えられる。何をされたのか理解し、薄れていく意識の中で、トキは死んだら、とほほ笑んだ。
死んだら、かなたの空から魂が落ちて石に宿る。精霊になって、ずっとハルカのそばにいられる。だから、死ぬまでの間、この命をハルカに捧げることに何のためらいもない。
まだハルカの役に立つのなら、自分はきっと死なないだろう、トキはそう思った。 |