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vanish そして3

 慎也が泣きやんだ後、箱に残っているピアスを左耳につけてくれた。腹は減っていたが、まずは慎也を食べたいと言うと、彼は赤くなり、頷く。ソファへ横たえさせて、要司はジェルとコンドームを用意した。 
 セックスの回数は少ないほうだと思う。慎也はあまりアナルを犯されることを好まず、前戯や軽い接触のほうを喜んだ。アナルへ指を入れながら、彼の乳首をなめたり、ペニスを扱くと、甘い声が聞こえる。重なった手の感触に視線を移すと、彼の左手にはシルバーリングがあった。首筋のチェーンを指先でもてあそび、何度もくちびるをついばむ。
 コンドームをつけてから、慎也のアナルへペニスを入れた。いまだに怖がることがある。そういう時、要司は優しく慎也の名前を呼んで、今、彼を抱いているのは誰か分からせた。
「っああ、ん、ア……よ、う、よーじさっ……ン」
 抱くたびに慎也のことを愛しく思う。その深さは底知れず、どんなに愛しているのか、伝わって欲しいと思いながら、腰を揺らす。徐々に速く深くアナルを突くと、慎也が短い嬌声の後、体を震わせた。要司のペニスも中で爆ぜる。
「ずっと一緒にいような」
 荒い呼吸を吐くくちびるへキスを落とす。
「老後は二人で田舎に引っ込んで」
 要司はもう一度キスをした。
「畑仕事をしながら、収穫した野菜でレストランをする」
 要司が、「そうだろ?」と確認すると、慎也が大きく頷いた。貯金を使ってぜいたくなことをしない理由は、老後二人で田舎暮らしをするためだ。慎也の夢は要司の夢でもある。彼の指輪へキスをすると、彼も少し体を起こして、要司の左耳につけてくれた同じデザインのピアスへキスをくれた。

「俺の時は……ちょっと勢いに任せた部分もあって、あんまり参考にならないかもしれないけど、やっぱりロマンチックなところで、シンプルな言葉で伝えるのが一番だと思う」
「シンプル……」
 悩み始めた総一郎に、要司はコーヒーを飲みながら一緒に考えた。
「ほら、たとえば浅井は、毎日、俊治君の作ったカクテルが飲みたいって言ったみたいに、彼がいないとダメなんだ的な、そういう感じの」
「なるほど」
 大きく頷いたのを見て、要司は心の中だけで付け足した。総一郎の場合は第三者にも、洋平がいないと「ダメ」なのは分かるくらい感情が漏れているから、言葉にしなくても大丈夫そうだ。
「……旅行に連れ出そうと思っている」
「あぁ、いいね。どこに?」
「ドバイ」
 夜の砂漠でプロポーズすると言う総一郎の計画を聞いて、要司は久しぶりに学生の頃の胸が躍り出すような気分になった。結局、あまり参考にならなかったとは思うものの、総一郎は満足した様子で、土産を楽しみにしてくれと笑っていた。少しでも役に立てたならいいか、と要司は家を目指す。
 家に帰ると、明かりがついており、原付バイクの音を聞きつけた慎也が勝手口から顔を出した。
「おかえりなさい」
「ただいま」
 玄関に回るのが面倒で勝手口から中に入る。家は古くて、中も改装しているが、デザイナーズマンションや高級住宅には敵わない。だが、そこで帰りを待ってくれている慎也は、比べようのない最高の恋人だった。
「どうしたんですか?」
 冷蔵庫からビールを取り出した慎也が笑う。
「まだまだ全然足りないなーって思ったんだ」
 首を傾げる慎也へ向かって、要司は靴を脱ぎ、彼の体を抱き締めた。
「俺がどんなにおまえを愛してるか、まだまだ全然、伝えきれてない」
 慎也の頬にかかっている前髪をよけて、キスをすると、彼はほほ笑んだ。
「それを言うなら、俺もです。俺がどんなに要司さんを愛してるか、もっと分からせてあげます」
 挑戦的な目つきでこちらを見上げた慎也が、ぱくっと左耳を食んだ。左手が要司の中心部をなでる。こんなふうに楽しめるようになったのは、それだけの時間を共に過ごしてきた証拠だ。どんどん深まるきずなが壊れたりしないように、要司は慎也の指先に自分の指先を絡めた。

そして2 番外編1(慎也視点)

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