あおにしずむ 番外編7 | ナノ





あおにしずむ 番外編7

 アトリエで注文のあったブーケのデザインを描いていたヤニックは、時計を確認して立ち上がる。そろそろ、ロビー達がランチのために戻ってくる時間だ。祖母に習ったカブのスープと焼き立てのパン、ソーセージとチーズという軽食だが、炎天下の農園を動き回っている彼らにはご馳走だろう。
 午前中だけ来てくれるアルバイトの二人と、五年前からとり始めたフローリストの研修生が三人、そして、自分達の席を用意していく。暖炉の上の台には三年前に亡くなった祖母を囲むようにしてロビーと一緒に撮影した写真が増えていた。
「あっつい!」
 まだ若い、元気いっぱいの研修生達が、靴の底の砂を払いながら、入ってくる。
「アイスティーでいい?」
「あ、はい! ありがとうございます!」
 ヤニックは冷蔵庫で冷えているアイスティーを取り出し、リビングのテーブルに並ぶグラスへ注いでいった。バスルームで手を洗い終えた順番で、席が埋まっていく。
「お疲れさま」
 ヤニックは皆に声をかけた後、最後に戻ってきたロビーを迎えた。汗だくの彼は、ブロンドの巻き毛の先から汗を滴らせている。だが、不機嫌ではない。にこりと笑い、くちびるに触れるだけのキスをくれた。
「先に食べてて。シャツだけ替えてくる」
 たくましい背中を見送りながら、ヤニックはくちびるに触れ、ほほ笑んだ。

 大人数のランチとは違い、夜は二人だけの時間だった。くだらないクイズ番組を見ながら、ソファへ並んで座り、互いの手を取り合う。花を扱う人間の手は、荒れやすい。ハンドクリームを互いの手や指先に塗り込めるのが、いつの間にか、夜の習慣になった。
 ロビーがふざけて、白いクリームを鼻先につけてくる。甘いバニラとカモミールの香りがした。
「ロビー」
 咎めるように言うと、彼は笑って、ヤニックの服を脱がせた。ハンドクリームのチューブから大量のクリームを手に乗せて、それをヤニックの腹の上に塗りつけてくる。
「っわ」
 冷たさに驚いて声を出すが、ロビーはいつも通りの声で言った。
「最近、アトリエにこもってばっかりで、疲れただろ? 今夜はロビークリニックが全身マッサージを施術します」
「いい、いいです、いらないです」
 ヤニックは笑いながら断った。その間にも、腹の上を這っているロビーの指先がくすぐったくて、感じてしまう。
「ベッドにうつ伏せて」
 言われるまま、うつ伏せになると、ロビーは意外と真面目に肩と背中をマッサージしてくれた。細かい作業をすると、目も疲れるため、こうしたマッサージは本当に気持ちがいい。足のふくらはぎまで優しく揉まれて、ヤニックは全身の力を抜き、バニラとカモミールに包まれた。
「はい、仰向けになって」
 ふくらはぎをマッサージされている時点で気づくものだが、体を回転させた後、ヤニックは自分が全裸になっていることをようやく悟った。
「ロビー」
 ロビーは笑みを浮かべて、「中も解すよ?」とハンドクリームの代わりにローションを手にしている。三十代に突入してからのほうが、互いを求める回数が多くなった。来年、再来年と歳を重ねていけば、出会った十六歳という年齢以上に、彼と一緒にいる年数のほうが増えていく。
 自分は奇跡のような幸せを手にしていると思う。ヤニックは自ら少しだけ上半身を起こして、アナルを解してくれるロビーへ口づけた。
「愛してる」
 ロビーが目尻を下げて、満ち足りた笑みを浮かべた。
「俺もだよ、ヤニック」
 体内のマッサージは一回だけでは終わらなかったが、二人はバニラとカモミールの香り以上に甘い夜を過ごした。

番外編6 番外編8(ティム視点)

あおにしずむ top

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -