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 昼の間は動けないため、布製の簡易テントを張り、その下へ座って日射しを避ける。トキは右ひざを立てた状態で、そこへ顔を乗せ、吹き出す汗を拭った。精霊達は暑さに弱いため、砂漠地帯で呼び出すことはしないが、契約したばかりのイズの調子が気になっていた。契約しておけば、石へ戻るより、ずっと早く回復する。十二歳の時、ハルカを入れて六つの印があったトキの体は、成長を止めていた。
 精霊達と契約を交わす際には代償が必要になる。だが、代償はそのほとんどが体力や生命力といったものであり、直接的なもの、たとえば、体の一部分と引き換えるということはなかった。彼らが対価に何を要求しているか、契約している本人には分からない。ただ、伸びなくなった身長や体力を鑑みる限り、体力や生命力といった目には見えないが、生きる上で必要な力を対価に求められている。
 精霊使いは早死にするという記録はないが、いくつもの契約をしている精霊使いはトキだけであり、その結果がどうなるのかはトキ自身にも分からないことだった。イズの印が首へ出たのは、そこ以外にもう印が刻める場所がないほど、体中が印で埋めつくされているからだ。
 一年半ほど前、ハルカからヒイロの森を目指せと言われ、学園と二つの王国の追手から逃げながら、精霊石を見つけるたびに契約を結んでいた。おそらくこれ以上の契約は結べない。ヒイロの森までたどり着いたら、契約はすべて終わらせて、精霊達を解放するつもりだ。トキはその後も世界中に散らばる精霊達を森へ帰す旅を続けるつもりでいる。
 そして、戦争が起きる前に精霊使いと契約している精霊達も解放したいと考えていた。精霊使いが契約したまま死ねば、精霊達も消えてしまう。精霊使いの中には契約している精霊と良好な関係を築いている者もいるため、精霊達の中にももしかしたら、契約している精霊使いのために協力してもいいと思っている精霊達がいるかもしれない。
 だが、ルシュタト王国とゼンレン王国との争いに巻き込まれるのは理不尽過ぎる。二つの王国はまだ緑の残る土地の取り合いをしているだけなのだ。年々砂漠地帯が広がり、植物の育たない不毛地が増えていることが原因だが、この世界を今の姿に変えたのは自分達の祖先だった。
 森を奪われたあげく、戦争にまで巻き込まれるなんて、精霊達にとっては迷惑以外の何でもない。精霊王の怒りはもっともであり、トキは人間として、ヒイロの森へ入れば、精霊王に殺されるかもしれないことも予測していた。 
 ハルカはおそらくヒイロの森に残るだろう。現精霊王の寿命が近く、ヒイロの森は新しい王を必要としている。ハルカとの契約だけは、終わらせたくないというのが本心だった。トキはハルカのことをとても大切に思っている。

 熱をはらんだ空気を肺へ吸い込みながら、トキは砂丘の彼方で揺れる蜃気楼を見た。大きな白い支柱とレンガ造りの学園があった。少し体を休めようと目を閉じると、肩をたたかれる。
「トキ、大丈夫?」
 声のほうへ振り向くと、同じ授業を取っている友人が心配そうにこちらを見ていた。トキは頷いて、廊下を歩き出す。口数の少ない、暗い人間、とささやかれているのは知っている。そこへ、教師達へ取り入っている、精霊達と乱れた関係を築いている、という陰口が追加されていた。十二歳ともなれば、大人の一歩手前だ。そういった類の噂は異性の少ない閉鎖された空間の中で、おもしろおかしく歪んでいく。
 トキの精霊使いとしての才能は、早くから知られていた。学園では精霊使いとしての自分が必要とされていると理解したトキは、その力を余すことなく発揮した。そうすることで、認められた気がしたのだ。
 両親から愛情を受けずに育ったトキは常に無表情だったが、歳が上がるにつれ、その美しさには誰もが見入った。薄いグリーンの瞳と淡いブロンドの髪、そして、日射しの下で訓練しているにもかかわらず、トキの体は日焼け知らずの白い肌だった。
 嫉妬から様々な嫌がらせを受けていたが、擁護してくれる人間もいるため、大きな問題にまで発展してはいなかった。契約している精霊とベッドをともにして、蓄積されていく性欲を発散させる者も多かったが、トキはそういった者達からの不躾な視線にも耐えていた。
 蜂の巣のような造りになっている精霊使い達の寝室の中で、トキに与えられていた部屋はいちばん大きなものだ。眠ろうと体を横たえた時、スィンの声が聞こえた。スィンはトキが初めて契約を結んだ精霊であり、相性もとてもいい。スィンは印から出たがったが、トキは呼び出さずに部屋から飛び出した。

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