And I am...27 | ナノ





And I am...27

 『ブォンリコルド』に着いたのは、ランチタイムが終わった頃だった。タクシーを降りて二人で中へ入ると、テーブルの後片づけを手伝っている会田の姿が目に入る。
「いらっしゃいませ。喫煙席がよろしいですか?」
 この間、総一郎が煙草を持っていたところを見ていたのだろう。会田が尋ねると、総一郎は、「禁煙でいい」と言った。彼は煙草を持っているにもかかわらず、家では吸っていない。灰皿はあるから、おそらく吸っていたはずだ。今は会社で吸っているのだろうか。洋平はメニューを見ながら、それにしてはスーツも煙臭くない、と思った。
「おまえは?」
 いつの間にか、店員が来て、注文を取っている。洋平は慌てて、視線を動かした。
「総一郎さんは何にしたんですか?」
「ボンゴレビアンコ……とシャルドネを一本」
 洋平は思わず笑みを浮かべた。総一郎は飲みたかったから、タクシーを呼んだのだ。今日は車を出さないと言われて、疲れているのかと心配していたが、理由が分かり安心した。洋平はエビとイカのオリーブピザをハーフサイズで頼む。
 先にシャルドネが運ばれてきた。店員がワイングラスへ注いでくれる。酒を飲むのは久しぶりだった。墓参りをしたことで、自分の中にきちんとした区切りができたと思う。グラス同士を当てると乾いた音が響いた。一口飲むと、さわやかな味が口に広がる。
 総一郎はワインクーラーの中にあるイタリア産のシャルドネを手に取り、ラベルを見ていた。洋平のグラスに少し注ぎ足してくれる。
「ありがとうございます」
 美味しい食事と白ワインに、洋平はしだいに気分がよくなった。お気に入りの場所で誰かとこんなふうに食事ができると想像したことはなかった。総一郎が器用にパスタをフォークへ巻きつけ、スプーンへ当てながら口へ運ぶ仕草に見惚れていると、口を動かしている彼がこちらを見た。彼は口元をペーパーナプキンで拭う。
「嬉しそうだな」
 洋平はただ頷いた。一口サイズに切ったピザを口へ運ぶ。
「おまえは静かでいい」
 今の言葉はどういう流れで出てきたのか分からないが、洋平は夕食の時のように、一言、二言話しては食事を楽しんだ。会話が途切れても、彼は自分をくだらない、つまらない人間だと思わない。そのことをもう理解していた。
 ゆっくりと食べている間に、総一郎は二本目を注文しており、洋平のグラスは常に淡いゴールドの液体で満たされていた。
「ほしがすきっていってましたね」
 うまく口が動かない。酔っているが、まだ立ち上がることはできそうだ。洋平はミネラルウォーターで舌を湿らせた。
「冬と夏の大三角、っていう言葉だけ、覚えてます」
 確か学校で習った。どういう意味かまでは覚えていない。総一郎が店員を視線で呼び、空のグラスへミネラルウォーターを注いでもらう。
「冬の大三角は二月がいちばんきれいに見える。今の時期だと……あぁ、そうだ、おまえにプレアデス星団を見せようと思っていたんだ」
「プレ?」
「プレアデス星団。肉眼でも見えるおうし座の、そうだな、近くにある密接した星同士の集まりみたいなものかな。青白く光っていて、とてもきれいだ。きっと気に入る」
 総一郎の言葉に、洋平は笑みを返した。掃除の時は天体望遠鏡や器具を壊さないように注意している。それを実際に使って、天体観測をしようと言われ、子どものように興奮している自分に気づいた。
 レストルームに立っている間に、総一郎が会計を済ませ、会田へ衣服を返していた。戻ってきた洋平を見て、会田が幸せそうな笑みをこぼす。
「若野さん、よかったですね」
 体調がよくなったことを喜んでいるのだと思い、洋平は頷き返す。
「本当にありがとうございました」
「店だけじゃなくて、うちにも遊びにきてくださいね」
 社交辞令ではないことは、会田の表情で分かる。洋平は総一郎の腕を借り、外へ出た。十七時を過ぎたばかりだが、すでに暗い。総一郎がタクシーを停めた。家に着くまでの間、うとうとしながら、彼の肩へ頭を乗せる。今、ベッドへ入ったらさぞ気持ちよく眠れるだろうと思った。

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