And I am...24 | ナノ





And I am...24

 洋平の容姿は人目を引くものではない。何か身体的特徴があるとすれば、身長が低いことと体つきが細いことくらいだ。顔にコンプレックスはないが、やはりきれいであったり、可愛かったりする人間を見ると、人生違うだろうな、と思う。もっとも、自分の人生に対する不平を容姿のせいにしてしまうことこそ、考え方が甘いと言われる要因であり、おそらく改めるべき点だろう。
「そんな弱い体で働くなんて無理だろう」
 頷きたいところだが、洋平は首を横に振った。
「立ち仕事でなければ、たぶん大丈夫です。それに、いつまでもここへ置いてもらうわけにはいきません」
 たとえば、週三日程度の仕事でもいい。つましく暮らせば、何とかなるはずだ。
「俺は、親父の思いを無駄にはしたくない。また出ていかせて、傷つかせて、泣かせて……ぼろぼろの状態のおまえを見るのは、正直……」
 つらい、という小さな言葉が聞こえた。今までずっと総一郎の感情を読むのは難しいと思っていたが、今この瞬間だけは違った。彼が動揺しているのが、手に取るように分かる。
「働かずに一日中、家にいるような人間は嫌いだが、おまえは体が弱い。だが、弱くても、きちんと仕事をまっとうしようと努力していた。好きでそういう体質に生まれたわけでもないのに、頑張って働いていただろ」
 洋平が瞬きをすると、頬に涙が落ちた。誰かに自分を認めてもらえることが、心を揺さぶる。総一郎の黒い瞳がさらに動揺の色を深めた。
「だから、その、別に、おまえはここにいたらどうかと思う。料理ができるなら、ハウスキーパーを雇わずに済むからな」
 早口に言うと、総一郎が立ち上がり、テーブルの上を片づけ始める。洋平は涙を拭い、立ち上がった。
「総一郎さん、俺、掃除も洗濯もできます。庭の手入れとスーツのクリーニングはできないけど、頑張ります」
 片づけの手伝いをしながら言うと、総一郎はかすかに笑った。
「別に、頑張らなくていい。体調が悪い日はベッドにいろ」
 総一郎がシャワーを浴びている間、洋平は寝室のベッドに寝転び、アクアリウムを眺めていた。体が弱いことを恨み、煩わしいと思っていたのに、今はそのことを忘れられた。彼は謝らないが、あれが彼にとって最大限の謝罪なのだと分かった。
「洋平」
 寝室の扉がノックされた後、総一郎が顔だけを出す。
「おやすみ」
「あ、俺が二階で……」
 言いかけた言葉を遮るように、総一郎は首を振った。
「そのアクアリウム、好きなんだろう? おまえがここで寝たらいい。おやすみ」
 扉が閉まった後、洋平は枕へ顔を埋めた。総一郎は川崎と同じく、慈愛に満ちた優しい人間だった。それを知ることができて嬉しい。その代償は大きかったが、彼に頑張っていると認められたことは、何よりも洋平の自尊心をくすぐった。
 顔を上げて、ブルーグラスグッピーを見つめる。優雅に泳ぐ姿に笑みを浮かべ、体を回転させた。仰向けになり、天井に広がるブルーライトの光を見た後、目を閉じた。

 総一郎が週末に買い出しを提案したのは、家の周囲にスーパーがないからだった。ガレージのシャッターを開けた彼は、二台ある車のうち、国産車のほうへ乗り込む。車を出すと、彼はシャッターの開閉ボタンを押し、玄関先に立っていた洋平に乗るよう指示した。一瞬、後部座席か助手席か迷っていると、彼が助手席のドアを開ける。
 大型スーパーまでは車で三十分程度だ。駐車場へ車を置き、総一郎がショッピングカートへかごを入れた。衣服の買い物は慣れいてるが、男同士でスーパーへ食材を買い出しにくることは初めてで、洋平は浮ついた気分になった。好きな人と付き合ったら、夕飯の食材を一緒に買いにいく、という行為を一度はしてみたいと思っていたからだ。
 冷蔵庫はほとんど空に近い状態だったため、総一郎は適当に野菜や肉をかごへ入れていく。
「必要な物、入れていけよ」
 うしろに続いて歩いているだけの洋平だったが、そう言われて、ひとまず考えていた一週間分の献立に必要な物を集めた。

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