And I am...22 | ナノ





And I am...22

「洋平、靴を見にいくか。服もさすがにそれじゃまずい」
 洋平はサンダルを見てから、自分の格好を確認した。あとで知ることになるが、他の靴よりましだと思い履いてきたサンダルは、二万円以上するものだった。
「仕事……?」
「大丈夫だ」
「俺、金が……あと、お借りしてる十万円はちゃんと返します」
 総一郎が怪訝そうな顔をする。洋平は必需品や家具を買った金の話をした。彼の瞳が一瞬、怒りで燃えた後、静まった。
「それは貸した金じゃない。祝い金として、おまえに渡せと指示していた」
 大きな溜息をついた総一郎は、コーヒーを飲み干す。
「高堂は切った。笹谷にも報復はしてある。笹谷と原野は刃向かわないだろう。だが、高堂はおまえに危害を加えるかもしれない。あいつは自宅を知っている。だから、おまえには家にいて欲しかった」
 いて欲しかった、という総一郎の言葉に、洋平はなぜか涙が出そうになり、それを飲み込む。レモンティーを流し込んで、気づかれないよう視線を落とした。
「車を待たせてある。歩けるか?」
 サイズの合っていないサンダルだったが、洋平は頷いた。会計をしようとすると、総一郎が懐から財布を取り出す。洋平の財布の中にある金も、元をたどれば彼のものだから、ここは大人しくおごられようと思う。
 キッチンから出てきた会田が、袋を差し出す。使い捨てのプラスチック容器にはパスタが入っていた。
「いつもすみません」
「いえいえ。まだ病み上がりのようだし、あまり無理しないでください。服は本当にいつでもいいですから」
 会田は総一郎へショップカードを渡した。彼はそれを受け取り、財布へしまう。それから、彼の名刺を会田へ渡した。
「さっきは悪かった。今度は二人で来る」
「お待ちしています」
 笑顔の会田に見送られて、洋平は少し肌寒い外へ出た。今度は二人で来る、と言った。洋平は一瞬だけ総一郎を見る。読めない表情だった。運転手へ店の名前を告げた後、彼がこちらを見てくる。居心地が悪くなり窓から景色を眺めた。
 男と二人で買い物へ行く。これまで何度も経験したことだ。大したことではないのに、ひどく意識している自分がおかしい。総一郎は店員へ、楽に動ける衣服を用意させた。
「以前のサイズに戻ったら、採寸し直して、シャツやパンツももっと用意しよう」
 ブランドショップの店内で、ひとまず着替えさせられた後、靴屋へ向かう途中でそう言われた。靴屋ではきっちりと足のサイズや形を確認された。スニーカーと革靴の他に何足か出され、足に合うかどうか確認され、頷くと、総一郎が店員へカードを渡した。
 一足だけ履いて帰れと言われ、スニーカーを選ぶ。他の靴はすべて箱へ入れられ、奥へ消えた。衣服と同様に自宅へ送るのだろう。カードが戻ってくると、総一郎とともに車へ戻る。
「今日はもう腹いっぱいか?」
「はい」
 総一郎は自宅へ向かえと告げる。さんざん歩いて、満腹の上、店をめぐり、洋平は限界だった。静かに動く車の中で目を閉じる。彼の手が伸びてきて、洋平の体をそっと引いた。洋平は彼の肩を借りて眠る。あんなに居心地悪く感じていたはずなのに、洋平は今とても幸せな気分だった。
 食べたい物を食べて、体を動かし、満たされて目を閉じる。久しぶりに感じた充足感は体調にもいい効果をもたらすだろう。抱えられて、柔らかなベッドに寝かされる。知らない間にシーツが替えられていた。よく見ようと目を開けようとすると、総一郎が髪をなでた。
「ゆっくり休め」
 総一郎が照明を消すと、アクアリウムのブルーライトが寝室内を照らす。不意に彼はどこで寝ているのだろうと思った。病人だから、特例で優しくされているなら、体調が戻ればまた冷たくされるのだろうか。洋平はそれなら、ずっとこのままでいいのに、と甘いことを考えた。

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