And I am...20 | ナノ





And I am...20

 日曜も土曜と同じようにDVD観賞をして、怠惰に過ごした。月曜の朝は六時頃から起き出していた総一郎が、静かにクローゼットからスーツを選ぶ音で目を覚ました。洋平の視線に気づいた彼は、ネクタイを首から回した状態でこちらへ来て、額へ手を当てた。
「もう熱はなさそうだ」
「……シャワー浴びたいです」
 総一郎は頷き、「髪はドライヤーで乾かして、外には出るな」と言った。洋平は体を起こす。おかしくて笑ってしまった。彼が動きを止める。
「最初の頃、俺の顔見て、いらいらしたんですよね? 俺が弟さんに似てたから。でも、今は反対になってます。俺を弟さんに重ねて、川崎さんみたいに心配してます」
 総一郎は少し驚いた顔を見せた後、すぐに言った。
「おまえを弟と重ねていたのは親父だ。俺は違う。俺は……病人を邪険に扱うほど冷たい人間じゃない。それに、おまえが俺を嫌うのも当然だと思っている。とにかく、今日も外に出るな、いいな?」
 洋平の返事を待たず、総一郎は寝室を出た。一日中、家にいる人間は嫌いだと言っていたくせに、病人だけは彼の中で例外らしい。洋平は玄関扉の閉まる電子音を聞き、車のエンジン音が遠ざかってから、バスルームへ移動した。
 体に残る傷痕は時間が経てば分かりにくくなるだろう。洋平は包帯を巻かずに、バスタオルだけ巻いて、髪を乾かす。久しぶりのシャワーは気持ちよかった。体調が戻って、気分もいい。
 自分の服と下着を探して、クローゼットを開ける。クリーニング店のロゴが入った袋の中から目当ての物を見つけた。洋平は冷蔵庫から朝食を調達し、リビングから裏庭を眺めながら食事をする。
 今は体調もよく、何でもできる気になっているが、ホームドクターが言っていた通り、ストレスからも体調をよく崩す自分に、まっとうな仕事ができるとは思えない。地に足をつけた人生を送りたいと目標を立てても、洋平の人生はそう思うように進んではくれなかった。その大半はもちろん自分が原因だろう。健康だけは金で買えないと言うが、本当にその通りだと思った。
 洋平はソファの上に寝転び、天井を見ながら、総一郎のことも考えた。弟に重ねていないと言うなら、責任感の強そうな彼のことだ。おそらく、川崎の手紙のために、自分の面倒を見る気になっているに違いない。原野のところへ様子見に来たのも、そういった使命感からだ。
 自分がこれからどうなっていくのか、まったく分からない。どうしたいのか、という希望すらなかった。不意に『ブォンリコルド』のパスタが食べたくなる。洋平は夢の中でパスタを注文していた。どうしても食べたい、と思いながら、目を開くと、裏庭を照らす光の方向が変わっていた。
 どうやら数時間、眠っていたらしい。洋平は寝室に戻り、サイドボードの上に置いてある自分の財布と携帯電話を手にした。シャケとホウレンソウのクリームパスタが食べたいと考えながら、本当は食べることへの欲求ではなく、会田達に会いにいきたいという欲だと分かり、寂しさを感じた。外へ出るな、と言われたが、洋平は冷蔵庫からペットボトルを一つ持ち出して、玄関から出た。
 周囲にはぜい沢でシックな造りの一軒家ばかりが、きれいに舗装されている道路に続いている。徒歩では交通機関に頼れる場所まで行けないのではないか、と思った。とりあえず、携帯電話で地図を出して自分の位置を確認しながら歩く。
 最寄り駅までたどり着いた時、洋平はへとへとだった。路線図を見上げて、切符を購入し、昼のせいか空いている電車に乗る。ミネラルウォーターを飲み干して、だんだんと都市部へ近づく風景を眺めた。ジーンズやパンツのような下にはけるものが、総一郎の家にはまったくなかったため、原野の家で着ていたスーツと、唯一、履けたサンダルというおかしな組み合わせの洋平を、何度か乗客が見てくる。
 洋平は駅に着くと、早々にコインロッカーへ行き、料金を払ってから、財布の中にある鍵で開けた。衣服の入った鞄を持って、トイレで着替える。自分の服はさすがに体になじんだが、やはりサイズは合わなくなっていた。
 洋平が『ブォンリコルド』へ入ると、ランチタイムを終えたばかりの店内から、元気なあいさつが響いた。
「若野さん、いらっしゃいませ!」
 会田がカウンターから出てくる。洋平は自然と笑みをこぼした。

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