And I am...19 | ナノ





And I am...19

 洋平の言葉に総一郎は怒ることなく、寝室を出ていった。確かにまだ本調子ではないが、寝過ぎていて、これ以上ベッドの中で過ごすことには飽きている。洋平はそっと起き上がり、アクアリウムを眺めた。しばらくすると、人の気配がしたため、振り返る。トレイを持った総一郎が入ってきた。
「おかゆなら食べられるだろう?」
 総一郎はオーディオプレーヤーの前にあった座椅子の上にトレイを置き、ベッドへ近づける。
「……いりません」
 湯気を立てているおかゆから視線をそらし、ブルーグラスグッピーを見た。この中に入ってしまえたら、今、自分と総一郎の間に漂う空気を感じずに済むのに、と洋平は考えた。嫌な空気ではない。だが、とても不自然でリラックスできない。彼の読めない表情を見ることも面倒だった。以前のような軽蔑の色はなく、まるで友達を見るようにこちらを見てくる。それが気に入らない。
 洋平がブルーグラスグッピーの群れを目で追っていると、総一郎がベッドへ腰を下ろした。出ていって欲しい、と言えたらいいが、ここは彼の家だ。洋平は観念して、彼へ視線を向ける。
「礼はいらない。俺のミスだ。把握できていなかった」
 スプーンを器の中へ入れ、総一郎がおかゆを差し出す。洋平はそれを受け取り、食べ始めた。謝ってくれるのかと思ったが、彼はこちらを見ているだけで、特に何か口を開こうとする様子はない。態度からして、謝るような性格でもないと思い、小さく息を吐いた。
 大部分は総一郎のせいだと考えていた。だが、たとえ総一郎が仕事を紹介していなくても、洋平はいずれ売りをしており、中身は何も変わらない。自分を見つめる視線に耐えながら、洋平はほの暗い思いに浸る。彼の弟に似ているから、こうして世話をしてくれる。それなら、このまま甘えていていいのではないか。自分は体を休ませることができる。彼は弟の代わりを手に入れられる。その考えこそが甘いのだと指摘されそうだが、間違いではないはずだ。
 窓際のサイドボードの上にある写真立てには、一度だけ見せられた弟の写真があった。洋平は器をトレイに戻して、立ち上がる。写真をよく見た。洋平と写真の中の彼はよく似ているが、もし、彼が大人へと成長していたら、おそらく今の自分とは異なる顔つきになっていただろう。洋平が総一郎を見ると、彼は薬を出していた。
「飲め」
 プラスチックのコップにミネラルウォーターを注いだ総一郎が声をかけてくる。洋平は薬を受け取り、それを飲んだ。
「あんまり眠くないです……」
 洋平はベッドに座ったが、また寝転んで過ごすのは嫌だった。薄型テレビのリモコンを渡される。
「DVDはあのサイドボードの中にある。必要な物があれば言ってくれ」
 総一郎はトレイを持って寝室を出た。その後、戻ってくることはなく、洋平は大画面のテレビでDVD観賞を楽しんだ。最初は集中できなかったが、一時間もすると、すっかり引き込まれ、二時間後にはクレジットタイトルを横目に次のDVDを探していた。
 夜もおかゆを用意され、薬を飲んだ後はDVD観賞に費やした。バスルームで真新しい歯ブラシを使い、歯を磨く。まだ眠くはなかったが、健康に過ごすためには規則正しい生活が必要だということは分かっていた。
「寝るのか?」
 リビングで酒を飲みながら、パソコンの画面を見ていた総一郎が立ち上がる。いちいち来なくてもいいのに、と洋平は思った。ちょうど彼の胸あたりに、自分の数日洗っていない頭が当たる。汗臭いだろうな、と思い、一歩下がろうとすると、彼の手が髪をなでてきた。
「おやすみ」
 今日、嫌いだと伝えたばかりなのに、笑みを向けられて困惑する。月曜にはおそらく体調も戻る。その後はここを出ていく。洋平は小さく、「うん」と頷き、彼に背を向けた。

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