And I am...16 | ナノ





And I am...16

 いつからか分からないが、洋平のペニスはここへ来た時からすでに反応していなかった。前立腺を責められても、軽くたち上がるだけで、射精に至ることはなかった。原野自身もすでに歳であり、なかなかたち上がらず、勃起するまでに時間がかかる。彼が勃起するためには洋平を痛めつける必要があるらしく、様々な方法でなぶられていた。
 原野は洋平が熱を出していても構うことなく犯す。どんなに体がだるくても、縛られていては横になることができない。いつの間にか喉の痛みは慢性化し、時おり、ひどい耳鳴りに悩まされた。
 ベッドの上に移動した後、うしろから犯された。原野のペニスだけではなく、卑猥な玩具でいじられていたアナルは、異物を入れられるだけで痛む。だが、それを訴える気力が洋平にはなかった。
 願いを叶えてもらえるなら、洋平の希望は一つだけだ。一日だけ、誰にも邪魔されずにベッドで眠りたい。その些細な願いさえ、ここでは叶わなかった。
 栄養注射を施された後、うとうとしていると、真新しい衣服を持った使用人が入ってきた。
「旦那様がこれに着替えて応接室へ来るように、と」
 洋平はせき込みながら、バスルームで顔を洗う。高価なブランドの衣服は洋平のサイズだが、実際に着てみるともうワンサイズ落としてもいいほど大きかった。着替えて応接室の扉をノックする。
 皮張りのソファに座っていたのは、総一郎だった。少し乱れた髪を見て、仕事帰りにここへ寄ったのだと分かる。一ヶ月以上見ていない。会う必要もなかった。彼は洋平の顔を見て、一瞬だけ顔をしかめた。
「今日もあまり具合がよくないんだよ、なぁ、洋平?」
 原野の言葉に頷く。
「そうか。元気でやってると聞いてたから安心していたが……」
 総一郎がどうして様子を見にきたのか、洋平には分からない。もう関わることはないと思っていただけに、彼の突然の訪問には面食らっていた。
「ずいぶん悪そうだな。ちゃんと食ってるのか?」
 頷くと総一郎が何度か瞬きを繰り返す。視線をそらすと、彼は原野へ向き合う。
「失礼。彼は弟に似ていて、親父が気にかけていたので、つい……」
「いえ、お気になさらず。正直なところ、彼は好き嫌いが激しくて、何を食べさせても素っ気ない」
 しだいに話題は土地や政治のことになる。洋平はぼんやりとしていた。会話など耳に入らない。
「洋平?」
 名前を呼んだのは、総一郎だった。一度も呼びかけられたことがなかった。顔を上げると、彼は立ち上がった。
「また時間があれば顔を出す。可愛がってもらえ」
 純粋な意味で言っているのは分かる。だが、洋平はもう胸が潰されそうなほど苦しくて、喘いだ。立ち上がって、彼の腕の中へ飛び込む。
「どうして、どうして? おれなんかいらないくせにっ、なんでよぶの? なんでくるの?」
 かすれた小さな声だが、洋平は力いっぱい叫んだ。ぼやけた視界から大きな涙が落ちていく。軽蔑しているくせに、何も知らない顔で自分を期待させて傷つける総一郎が憎い。こんなに憎んだのは生まれて初めてだった。
 総一郎は今も何が起きているのか分からない表情で、驚いている。だが、彼の手はちゃんと洋平の体を支えていた。
「子どもがぐずるようなものですよ。よくあるんです。洋平、川崎さんが困っている。離れなさい」
 洋平は総一郎の胸に顔を押しつけ、離れないという意思表示をした。涙だけではなく、鼻水や唾液が彼の高級なスーツを汚したが、洋平はそれでも嗚咽を止められなかった。さすがにおかしいと感じたのか、総一郎が肩を押さえるようにして、洋平のことを体から離し、少し屈んだ。
「どうした?」
 洋平は乱れた呼吸を落ち着かせることができず、ただ嗚咽を漏らすだけで何も言葉にできない。
「ひとまず部屋へ運びましょう」
 原野が動く気配を感じた。もう嫌だと視線を上げる。総一郎の視線と交わり、彼の瞳が洋平の手首へ注がれた。秋物のスーツのシャツから少しずれた細い手首が見える。そこにある赤い擦過傷を、彼は見た。

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