And I am...14 | ナノ





And I am...14

 外へ出て、ひとまず駅のほうへ歩いた。ロータリーの木陰で体を休ませる。飲み物を買おうと思いたって、洋平はコンビニへ向かった。人の優しさに触れ、元気が出た。高堂の言う通り、また売りをして稼ぐしかないが、賭けの対象になりながら、あの社長の相手をするよりましだと思える。
 総一郎に誤解されたままというのは悔しい。だが、自分に甘い、という彼の言葉は間違えてはいない。スポーツドリンクを片手に、洋平はもう一度、木陰に戻った。夕方になっても日射しはきついが、冷房の効き過ぎた場所にいるよりかはいい。
 薬局が閉まる前に風邪薬を買っておくべきだと思った。財布の中にはまだ四万円と少しある。時おり、吹いてくる風に目を閉じると、体が揺れている感覚に陥った。横になりたいが、ここでは無理だ。洋平はせきがおさまった後、近くのネットカフェを探した。その前に薬局だ、と足を踏み出した瞬間、その場で転んでしまった。
 せきがおさまるまで、立ち上がれない。しばらく、その場で座り込んでいると、二の腕を引き上げられた。
「サボるとはいい度胸だ」
 総一郎の声に顔を上げると、彼は涼しげな表情でこちらを見ていた。どうしてここにいるのだろうと思ったが、その疑問を口に出すより早く、彼の優秀な秘書がいないか視線をめぐらせた。
「高堂に辞めると連絡したらしいな。順調だと聞いていたが、どうした?」
 洋平の異変に気づいた総一郎が、両手で体を抱えてくる。彼のフレグランスが鼻をかすめた。
「熱があるのか……」
 うっすら目を開くと、総一郎に抱えられて車へ入れられるところだった。
「俺だ。往診を頼めないか? あぁ、熱が高い、俺の家に。そうだ」
 電話を終えると、総一郎が顔をのぞき込んでくる。
「駅前を通ってよかった。寮も空だと聞いてたからな。まったく……」
 言葉の続きが分からなかった。洋平はゆっくりと意識を落としていく。もういいか、と聞いたら、もういい、という言葉が聞こえた。

 誰もが知るような難病や重病であれば、同情される。だが、男が軟弱だと非難されるだけだ。丈夫に産んであげられなくて、ごめんね、とよく母親に言われた。
 洋平は目を覚ますと、自分のいる場所を把握した。総一郎の家だ。以前と同じ二階の部屋にいる。喉が渇き、サイドボードにあったスポーツ飲料を一気に飲み干した。喉は痛いが、体のだるさは少し消えている。ベッドに座り、いつの間にか着替えさせられていた自分の体を見ていると、扉が開いた。
「起きたのか」
 総一郎の声には怒気が含まれていた。何だろうと思い、視線を合わせると、彼はやはり怒っている。
「体調不良を起こしやすいそうだな。夜の生活が乱れ過ぎなんじゃないのか」
 扉を開けて、壁に背をあずけた総一郎が腕を組んで、溜息をついた。
「高堂から聞いた。笹谷に迫ったらしいな。断られた腹いせに部屋へ男を入れたのか? 寮の住人からも苦情が出ていたと聞いている。あげくに体調を崩して、笹谷へ辞めると言って会社を飛び出した……社会人経験のないおまえには理解できないだろうが、おまえのしたことは最低なことだぞ」
 責めているというより、呆れている口調だった。
「親父が面倒を見ていたくらいだ、と期待した俺が馬鹿だった」
 いったい何日くらい寝ていたのか分からない。その間に悪者にされているのは確かだ。洋平は真実を言うべきなのかどうか考えた。だが、それを伝えても、もし、総一郎が高堂や社長の言い分を信じると言ったら、と思うと、すぐにこたえは出なかった。
「働きたくない、男を誘ってばかりのおまえに合う生活を与えてやる。心配するな。親父みたいに時々、食事に行くだけの関係でいいという相手だ。高堂が捜してきた」
 洋平は布団の端を握り締めた。高堂は自分を嫌っている。その彼が捜してきた相手が、川崎のような人間のはずがない。
「最後に一つだけ教えてやる。親父がおまえの面倒を見た理由だ」
 総一郎はいったん部屋を出てから、写真立てを持って戻ってきた。彼はベッドに座っている洋平に写真立てを差し出す。そこには青年の頃の総一郎と、もう少し幼い、おそらく弟だと思われる男の子が写っていた。そして、その男の子は自分と似たような顔立ちをしていた。
「交通事故で十二歳の時に死んだ弟だ……似てるのは、顔だけだな……」
 総一郎は洋平の手から写真立てを奪うように引っ張ると、部屋の扉を閉めた。川崎が自分に求めたものに気づき、涙があふれる。自分が父親を見出したように、彼も亡くなった息子と重ねていた。今になって、彼がいつも心配していた自分の将来のことをもっと考えておけばよかったと思った。あんなに気にかけてもらっていたのに、自分はちゃんとした礼すら言えていない。

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