And I am...12 | ナノ





And I am...12

 社長が自らチャックを下ろし、軽くたち上がっているぺニスを取り出す。洋平は冷たくなっている手を握った。ここは冷房も効き過ぎている。
「売りをしていたらしいじゃないか。ぜひそのテクニックを披露して欲しいな」
 すぐにここから飛び出して、辞めることはできる。だが、総一郎はどう思うだろう。借金だけして、また以前の生活に戻るくらいなら、少しの我慢をするほうがいい。洋平はそう考えた。
 ひざをついて社長の股の間へ顔を埋める。しょせん努力しようと思っても、こうして傷つけられる。今までならここで諦めた。それが自分に甘いと言われる原因だろう。だから、洋平はどんな扱いを受けてもここにいなくてはいけないのだと錯覚した。もしかすると、総一郎は試しているのかもしれない。
 口の中で大きくなり、喉の奥を突いてくるペニスを不快に思いながらも、洋平は舌とくちびるを使い、愛撫を繰り返した。
「さすがだな。飲めよ」
 社長は洋平の髪をつかみ、激しくペニスを喉の奥へ打ちつけてくる。それから、小さくうめいて、温かい液体を洋平の口内へ出した。ぎゅっと拳を握り締めて、それを嚥下する。
「明日から、すぐ入れれるように、下の準備をしてくるんだ」
 頷けたかどうか、分からない。社長室を出て、すぐにトイレへ走った。口をゆすいでいると、先輩社員がやって来る。
「大丈夫か?」
 心配され、洋平は顔を上げた。彼らは知らないのだと思った。だが、先輩社員の目を見た瞬間、彼がまったく心配していないことが分かった。
「おまえ、根性ありそうだから、俺の一人勝ちになるかもな。一ヶ月はもってくれよ」
 ハンカチで濡れたくちびるを拭きながら、洋平はにじんだ視界へもハンカチを当てた。賭けの対象になっているのは心底気に食わないが、一ヶ月もたずに辞めたら、それでも相手側の思うつぼだ。
 悔しいが、今の洋平には反撃できる力はない。せいぜい一ヶ月はちゃんと仕事をして、それから辞めるくらいしかない。どうなったとしても、自分が勝ち組になることはないのだと理解した。
 翌朝、あまりよくは眠れなかったが、洋平はシャワーを浴びてから、出勤した。自分の席へ向かう時、昨日まであったあいさつが消えていた。皆、面白がるように洋平を見ている。社長室へ呼ばれて、立ち上がった。
 社長は洋平の前にジェルとコンドームを差し出した。洋平はそれを受け取る。
「こっちへ来て、見せろ」
 ベルトを外して、スーツの下を下着と一緒に下ろす。社長の前で足を広げた後、洋平は左手をうしろへ回し、腰を突き出すような姿勢をとった。コンドームを指に被せて、ジェルをつけ、アナルへ押し込む。目を閉じて、ライトに照らされたブルーグラスグッピーを思い浮かべた。彼らのように優美な存在ではなく、水の中を優雅に泳げない。洋平は息継ぎさえ知らない魚だった。
 場違いな濡れた音が響く。社長が立ち上がり、洋平の腕へ触れた。自分を犯すペニスを見た。最初から強姦に近かった。本当は別に好きな人がいたのに、何とも思っていないクラスメートに犯された。恋なんて、できないのだと社長のペニスを受け入れながら思った。だから、きっと愛されることもない。
 乱れたスーツを整えていると、社長が卑しい笑いを見せた。
「おまえ、不感症なのか?」
 洋平は聞こえなかったふりをして、そのまま社長室を出た。泣きたくなるほど悲しいのに、涙は一滴も流れない。効き過ぎた冷房のせいで喉が痛み出している。自分の席へ座ると、ぶしつけな視線を何度も感じた。うつむいて、目の前のパソコン画面に集中する。
 定時になり、すぐに部屋へ戻った洋平は、まずシャワーを浴びた。それから、布団の中に入る。同性同士でパートナーを得ることが難しいことは知っている。会田や守崎が特別なだけだ。布団を握り締めて、洋平は嗚咽を噛み殺す。他人に憧れてばかりで、自分には甘い。自分すら愛せない。噛み殺したはずの嗚咽が、静かに部屋に響いた。

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