And I am...11 | ナノ





And I am...11

 彼はテーブルの上にプラスチックのパックに入ったサンドウィッチを置いた。
「食え」
 それだけ言って、リビングを出ていく。遅めの朝食を済ませた後、顔だけ洗い、バスローブから、昨日の服へと着替えた。ウッドデッキに座り、庭を眺めていると、彼に呼ばれた。玄関先に立っている秘書の高堂が、書類を彼へと渡した。
「仕事が早くて助かる」
 彼はそう言って笑みを見せてから、こちらを振り返った。
「高堂が部屋と仕事のことを説明してくれるから、彼について行け」
 洋平は深々と頭を下げてから、高堂の運転する車へ乗り込んだ。彼が一ヶ月ももたないと予想していることは分かっている。だからこそ、ここで踏ん張って、一歩を踏み出さなければと思った。
 運転している高堂がこちらを見ることなく、仕事についての説明を始めた。川崎グループの子会社の中で、特に電気工事業を行っている会社に、事務の空きがあるとのことだった。その会社には寮もあり、今はその寮へ向かっている。途中で駅へ寄ってもらい、コインロッカーから衣服を取ってきた。
 寮は二階建てで、一階の端の部屋の鍵をもらう。高堂は銀行の名前が入った封筒をまだ家具もない部屋のキッチンへ置いた。
「これは総一郎(ソウイチロウ)さんからです。生活の準備のために使うようにと。もちろん、貸しですから、毎月の給料から一万円ずつ引かれます。それと、月曜はあいさつも兼ねて、私が一緒に出勤します。迎えにくるので、ここにいてください」
「ありがとうございます」
 高堂も自分のことを嫌っているのに、丁寧に教えてくれた。そのことに対して、頭を下げると、彼のきれいな指先が前髪をつかんだ。驚いて顔を上げるのと、彼に引っ張られたのは同時だった。
「総一郎さんをその体で誑し込んだ、おまえにぴったりの仕事だ」
 彼とは寝ていないと言おうとしたが、高堂は言うだけ言って出ていく。どうして皆、自分の話を最後まで聞いてくれないのだろう。洋平は溜息をつき、まずは掃除道具や必要な物を買うため、外へ出た。

 寮から徒歩で十分程度のビルの中に、洋平が働くことになる子会社が入っている。大きな会社ではなく、ワンフロアのスペースに事務と営業が一緒に机を並べていた。営業といっても、親会社である川崎グループから請け負う仕事が多く、外回りはあまりないようで、現場へ向かう作業員のスケジュール調整を手伝っているようだ。
 高堂と一緒に社長へあいさつを済ませた後、洋平は自分の席へ案内された。隣の席にいる先輩社員から仕事の内容を聞き、分からないことはメモを書いて覚えるようにした。
 事務の仕事は勤怠管理と請け負った仕事の振り分けが主であり、パソコンを使うことが多い。洋平は一つずつ丁寧に学んだ。高堂の言葉に含みを感じていたため、何かあるのではないかと思っていたが、それは杞憂だった。
 一週間、九時から十七時まで働き、かすかな疲労を残しつつも、洋平は二週間目の月曜を迎えた。外線が鳴り、電話に出ると、彼の声が聞こえてきた。
「頑張ってるらしいな」
 表情が見えない分、声に温もりを感じた洋平は、思わず小さな笑みを浮かべた。
「はい、機会を与えてくださって、ありがとうございます」
 総一郎は何かあれば、高堂へ相談しろと言い、電話を切った。一分も話していない、短い電話だ。だが、洋平は彼が気にかけてくれたことがとても嬉しかった。
「若野君」
 社長に呼ばれて、すぐ立ち上がる。狭いながらも、社長室には応接セットが置かれていた。
「失礼します」
 座るように促されて、座ると社長が向かいに座った。
「慣れてきたかね?」
「はい」
「そうか。じゃあ、もう一つの仕事も始めようか?」
「はい……」
 もう一つの仕事とは何だろうと思いながらも、返事をすると、社長が手招きをした。洋平は立ち上がり、彼の横へ行く。彼が股を開いた。売りをしている時ならすぐに理解していたかもしれない。だが、事務として働いている自分に、まさか口淫を求めているとは思わず、洋平は首を傾げた。

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