And I am...8 | ナノ





And I am...8

 自分が甘いことを知るのは何度めだろう。いつになったら、学ぶのだろうか、と自分でも呆れてくる。洋平はゴム臭いペニスを口の中で愛撫していた。三万円がつきるまでに仕事が見つからず、結局、いつも通りのことをしている。うしろから別の男にアナルを犯されていた。同時に二人の相手をすれば報酬も二倍だと安易に頷いた。
 これまでのところは普通のセックスだ。口内で大きく脈打ったペニスが、ゆっくりと口から出ていく。男は満足したらしく、コンドームを外した。うしろで腰を振っている男も射精した後は洋平のアナルからペニスを抜く。
 男達はちゃんと報酬を差し出した。その時に、男の一人が別の仕事があると持ちかけてきた。
「とある場所でパーティーがある。金持ちが集まるんだ。興味あるなら、来いよ。金曜十時に『LENY』ってクラブで待ち合わせしてる」
 洋平は詳細を聞かなかった。金持ち、と聞いて、以前のような生活ができたら、と思ったのは確かだ。だが、男は仕事だと言った。つまり、かなり過激なプレイがあると考えていい。体調は悪くはないが、その後に立ち上がれないようなことがあれば、また普通の生活から遠のいてしまう。
 この時はまったく行く気はなかった。金曜の夜、いつもの場所で立っていた。その場所は売りの人間が集まる場所であり、やくざのような組織に組み込まれている人間ではなく、洋平のような一人で動きている人間のための場所だった。
「おまえは行かないの?」
 向かいの街灯の下に立っている男が尋ねてくる。
「けっこう有名な裏のパーティーだよ。もし、援助してくれる変態がいたら、一生遊んで暮らせるかも」
 彼はそう言って笑った。
「代償が大きそうだから」
 洋平が返すと、彼は少し目を見開き、それからまた笑った。
「ほんとは皆があっち行ってくれたら、ここの客、一人占めできると思ったんだ。地道に稼ぐのがいちばんだからさ」
 彼の言葉に頷き、しばらく客が来るのを待ったが、今夜は人が来る気配がなかった。さらに日付が変わろうとする頃、彼が帰っていった。洋平はもう少しねばろうと思い、フェンスに背中をあずける。携帯電話でサイトを確認すると、確かに裏のパーティー情報と思わしきものが流れていた。
 比較しても仕方ないことだと分かっているのに、洋平は電話帳の画面で会田と牧の電話番号を眺めた。二人は今頃、同じベッドで眠っているだろう。あの朝、見た光景を思い出して、泣きそうになる。自分もあんなふうに、誰かから愛されたい。会田を抱いていた牧の腕や、彼の吐息を感じて、幸せな笑みを浮かべていた会田の頬が脳裏によみがえる。
 何がしたいか、と聞いてくれた川崎の言葉が聞こえた。それに対するこたえは、「愛されたい」だった。だが、馬鹿げている。自ら動くことのできない人間が、他人から愛されたいなんて言えるはずがない。
 母親がつないでくれた手を見た。無垢だった頃に戻れるわけではない。重たい罪悪感に胸が潰れそうになる。悪いことはしていないのに、どうして胸を張っていられないのだろう。自分は絶対に愛されないと思った。うつむいたまま、携帯電話を握り締める。考えることをやめたくて、洋平は携帯電話の中の情報へ視線を走らせる。
 『LENY』へ行き、中に入ってソフトドリンクを注文した。カウンターの中の店員があごで奥へ入るように促す。騒音とカラフルな光の攻撃に気分が悪くなった。洋平は奥へと進み、ガードマンに体中を確認され、さらに奥へと進んだ。重厚な扉の前には二人の男が立っており、扉が開くとスポットライトのようなまぶしい光が目に入る。
 洋平は人影に隠れながら、様子をうかがった。先ほどの喪失感と罪悪感に突き動かされて、つい勢いで来てしまったが、スポットライトの先で犯され、もてあそばれている人間を見る限り、ここへ来たのは間違いだと思った。
「悪趣味だ」
 嬌声と男達の声に混じって聞こえた声には聞き覚えがある。洋平は目の前に立っている男の背中を見つめた。隣の男が小さく笑う。
「そうかな? 俺はこういうの好きだけど。前に飼ってた子、抵抗しなくなっちゃって壊れたんだよね。そろそろ、新しい子が欲しい」
 隣の男はそう言って、スポットライトを浴びている人間達のほうへ近寄っていく。洋平は少しずつ増していく恐怖から、扉のほうへ足を向ける。
「おっと」
 目の前の男に一瞬だが集中したせいか、自分の背後に人がいると気づかなかった。川崎くらいの歳の男が、洋平を支えるふりをして、腕を回してくる。

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