And I am...6 | ナノ





And I am...6

 会田はどこかへ電話をかけて、短い会話を終えた後、立ち上がらせてくれる。
「す、すみません」
 洋平は熱でもうろうとしていたが、外に出た時、会田があのマンションへ向かおうとしていることに気づき、足を止めた。
「大丈夫ですか?」
 体が辛くて足を止めたと思われている。洋平は迷ったが、無駄足をさせるわけにはいかない。素直にあの家にはもう住んでいないと告げた。会田はかすかに驚いていたが、すぐにほほ笑みを浮かべ、今はどこに住んでいるのかと聞いてくる。
 首を横に振ると、勘のいい会田はそれ以上、聞かなかった。そして、反対側の道路へ渡ろうとする。
「あの、会田さん」
 会田は道路を横断した後、タクシーに乗ろうとする。彼が自転車で通勤していることは知っていた。
「いいから、いいから乗ってください」
 決して押しは強くないが、有無は言わせない態度だった。一緒にタクシーへ乗り込むと、会田が行き先を告げ、また電話を始める。
「あ、俺です。和室に布団敷いてもらっていいですか? はい、あ、うん、そう。本当? ありがとう。え? はい、じゃあ、今から帰ります」
 電話を終えると、会田は肩にかけていた鞄からタオルを取り出して、洋平の額の汗を拭いてくれる。
「もう少しだけ我慢してください」
「あの、俺、どこに?」
 会田は安心させるような笑みを絶やさない。
「俺の家です」
「そんな、悪いです。迷惑だし、俺、ここで降ります」
 喉の痛みに顔をしかめながら言うと、タクシーがちょうど停まった。自分の言葉に停まったのかと思ったが、そうではないらしい。会田が支払いを済ませて、先に降りる。
 勝手にマンション暮らしだと想像していた。だが、周囲にはマンションはなく、一軒家が続いている。会田の恋人は歳上だと聞いたことがあった。
 守崎の恋人はよくランチタイムに食べに来ており、周囲へのけん制を欠かさない男だ。柔和な雰囲気であるのに、怒らせたら最後と理解できる冷めた笑みを浮かべている。常連客は皆、守崎の恋人を恐れており、守崎へ手を出す者はいない。だが、会田の恋人は一度も見たことがなかった。
「ここです」
 引き戸になっている玄関扉を開けた会田が、「ただいま」と声をかける。すのこに上がり、彼が入るように促す。
 洋平がまだ戸惑っていると、扉が開いて、豹みたいな男が出てきた。
「おかえり」
 実際、彼は豹柄のシャツを着ていた。普段着のようで、ジャージのズボンにそのシャツを着ているだけだ。明るさは控えめだが、それでも十分明るいブロンドに近い髪が揺れた。開いた扉からは涼しい風が流れてくる。
 彼は会田の頬に軽くくちびるを寄せた後、会田と同じ種類の笑みを向ける。
「いらっしゃい。具合、よくないんだって? 慎也、俺が連れて上がるな」
 紹介されなかったが、二人が一緒に暮らしていることは分かる。彼は洋平のことを軽々と抱き上げると、二階の部屋へ入った。
「布団しかなくて、寝心地悪いかもしれないけど、ごめん」
「すみません」
「いいよ、いいよ。とりあえず、慎也に何か作ってもらうから、寝てて」
 人の家に来て、すぐに寝るというのはどうかと思ったが、体は休みたがっている。洋平はそっと横になり、目を閉じた。左を下にして横になったため、目尻からあふれた涙が左側へとあふれていく。何も考えたくなくて、目を閉じた。
 しばらくすると、冷たいタオルが額に置かれた。うとうとしていた洋平が目を開くと、会田が市販の風邪薬を取り出して、中の注意書きを読んでいた。
「あ、若野さん、大丈夫ですか? おかゆ、少しでも食べてください。あと、これ、市販のだけど、きっと効くから、飲んでくださいね」
 人の優しさに触れて、涙腺が壊れたように涙があふれた。泣き続ける洋平の背中を、会田がそっとなでてくれる。彼は体が弱っている時は心も辛い時だと言葉をかけてくれた。

5 7

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -