And I am...5 | ナノ





And I am...5

 今さら弁解しようと思わないが、洋平は男と寝た後に学校を休んだことはない。思い返すと、高校時代から、自分はこういう生き方をしていたのだと気づく。それなりの人間に、それなりに取り入っておけば、嫌なことは起きない。適度に守ってもらえる。初めての時はほとんど強姦に近かった。本当は学校へ行くのも嫌だった。だが、洋平は驚くべき早さでそれに順応した。
 だから、これからの生活にもきっとすぐに慣れることができると言い聞かせる。洋平は駅のコインロッカーへ荷物を預けるため、立ち上がった。

 川崎の訃報は思った以上に体力にも影響しているらしい。洋平は自分の中へ荒々しくペニスを突っ込む男に合わせて、少し演技がかった甘い声を出す。今夜、二人目の客だった。客は自分の欲求を満たすことに夢中で、洋平のペニスが勃起していようが、いまいが、気にしない。洋平自身もそのほうが気楽だった。
 たいていはバックから突っ込まれるため、悪趣味な客でもない限り、いちいち射精しなくても済む。だが、射精がないからといって、体力を温存できるわけでもなく、洋平はすでに体調を崩していた。
 特別、見目がいいわけではない洋平が売りをしても、思った通りに稼げない場合が多い。時おり、無茶なことをする客に当たると、次の日は起き上がることすらできなくなる。
 体を売り始めて十日目、洋平はすでに半分以上、生活することを諦めていた。金は貯まらず、体中が痛み、アナルから腰にかけては感覚がない。毎晩二人以上をつかまえて、相手をしているのに、見た目と二十四歳という年齢のせいか、なかなか大きい金額では払ってもらえない。
 駅のコインロッカーから新しい服を取り出し、トイレで着替えた。最後の客が優しければ、昼までホテルで眠れる。それから、ネットカフェなどへ移動して、夜までの時間を潰した。体の節々が痛い。店内ではたいていおそろしいほど冷房が効いており、すぐに喉が異常を訴えてくる。
 だが、洋平にはどうしようもなかった。個室の椅子に体を丸めて目を閉じる。最初にここを訪れた時、洋平はインターネットで新聞記事を探した。川崎は確かに亡くなっていた。何か欲しい物はあるかと聞かれ、アクアリウムが欲しいと言ったら、次の日には大きな水槽と一緒にブルーグラスグッピーが運ばれてきた。
 二人でベッドに座り、幻想的なブルーライトの光を飽くことなく見た。川崎が自分に何を見て、何を求めていたのか、今となっては分からない。だが、少なくとも洋平は彼に父親を重ねていた。彼が今の自分を見たら悲しむだろう。実父が今の自分を見たら、思惑が当たったと嘲笑するだろう。
 食欲はなかったが、洋平は仕事へ行く前に『ブォンリコルド』で何か食べようと思った。寂しい気持ちになると、『ブォンリコルド』へ行く。あそこには会田や守崎がいて、偽りのない優しさをくれるからだ。
 扁桃腺が腫れており、唾を飲み込むだけで重たい痛みがあった。せき込むと、風邪を移されまいと、皆、道端へ寄る。洋平は途中、マスクを買った。『ブォンリコルド』の店内に入ると、すぐに以前見かけたことのある女の子の店員が来て、席へ誘導してくれた。注文も彼女が聞いてくれたが、しばらくすると、会田がテーブルまでやって来た。
「若野さん?」
 洋平は壁にもたれかかっていた上半身を正そうとする。だが、体に力が入らなかった。マスクを少し下げて、心配ないと言おうとする。せき込んでテーブルへ手をつくと、ミネラルウォーターの入ったグラスが倒れた。
「あ、すみませっ」
 せき込みながら謝ると、会田は穏やかな声で、「大丈夫です」と言い、洋平の前髪をかき分けて額へ手を置いた。彼の手はとても冷たくて、心地いい。
「ひどい熱……若野さん、家まで送ります」
 会田にそう言われて、洋平は自分が今とんでもなく迷惑な存在になっていることに気づいた。店はナイト営業が始まり、これからの時間が忙しくなるのに、風邪を引いた状態でここへ来たのは間違いだ。
「いえ、大丈夫です。すみません」
 倒れたグラスは他の店員がすぐに片づけてくれた。立ち上がろうとした洋平に肩を貸してくれた会田が、守崎を呼ぶ。
「俊治君、あと頼めるね?」
「大丈夫です。今日は九時入りで鈴木が来ます」
 会田に支えてもらいながら、初めてバックヤードへと入った。
「俺はナイト、あんまり入らないので、どんなに遅くてもだいたい九時上がりなんです。気にしないでください」
 ロッカールームの時計は二十時三十分を指している。コックコートを脱ぎ始めた会田を目の端に映しながら、洋平は涙を拭った。

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