あおにしずむ 番外編5 | ナノ





あおにしずむ 番外編5

 ヤニックは礼状を黙読し、同封されていた写真へ視線を落とした。そこには生まれたばかりの赤子と、その子を抱く母親が写っている。おそらく彼女が礼状を書いたのだろう。ティムの署名はなかった。彼女はきっとティムとヤニックが高校時代、同級生だった程度しか知らないのだ。
 ロビーは静かにヤニックを見守った。写真を燃やすと言っても、止めないつもりだった。だが、ヤニックは礼状を封筒へしまうと、写真と重ねて、物置へ歩き出す。彼が家から持ってきていた荷物を開け、その中のアルバムを手にした。
「信じられない」
 ヤニックはそうつぶやいて、写真をアルバムの中へ入れた。彼が見ているのは、昔の写真だった。小学生くらいのヤニック達が笑っている。
「ロビー」
 名前を呼ばれて、ロビーは入口からヤニックの横へ移動した。胸元あたりでアルバムを広げている彼の手元を見た。写真から赤子の名前が読み取れる。それを見た瞬間、ティムがまだヤニックを思っているのだと分かった。ロビーは腹が立つと同時に胸が苦しくなる。
「ブーケを作るの、とてもしんどかったよ。でも、彼女が喜んでくれて、よかった。俺のファンなんだって。フロリアネちゃんも可愛いね。ティムは……俺のこと……裏切り者だって言ったんだ……」
 ぐっとこらえるように、こちらを見上げたヤニックが、アルバムの上に涙の粒を落としながら続けた。
「ティムは裏切らないよね? きっと彼女達を幸せにするよね?」
 ロビーはヤニックが感じている不安を理解していた。嘘をつくのはよくないと思う。だが、それで愛する人が安堵するなら、いくらでも言葉を思いついた。
「大丈夫だよ。彼は彼女を愛してる。赤ちゃんだって生まれた。ちゃんと責任を取るって言ってた」
 ヤニックの手からアルバムを奪う。それを閉じてダンボール箱へ戻した。
「君の心が不安定な時だったから、言わずにいたけど、ずいぶん前、朝市の片づけをしていたら、パックとウェインが来たよ。パックは出稼ぎに街を出るって言ってた。ウェインは北の街へ行くって。二人とも、謝ってた」
 ロビーはひざまずいて、うつむいているヤニックの両手を握った。頬をつたう涙へキスをする。
「サッカークラブの連中も、謝りにきたよ……皆、自分の道を歩んでる」
 パックもティムと同様に一度、この街を出ていた。その後、彼がどうなったのか知らない。ウェインはおそらく刑務所にいる。サッカークラブの連中も朝市に顔を出したことなんてなかった。皆、ヤニックを傷つけたことを忘れている。ロビーは泣いているヤニックを抱き上げた。
「ヤニック・コルロー。君は幸せにならなきゃいけない。誰よりも幸せにならなきゃいけないんだよ」
 肩に顔を押しつけて泣いているヤニックを、部屋のベッドへ優しく下ろす。髪、額、まぶた、頬へとキスを与えながら、ロビーは彼の衣服を脱がせた。一度ベッドから離れて、潤滑ジェルだけを取り出す。ロビーは自身も裸になった。キスをしながら、ジェルで濡れた指先で、ヤニックのアナルを広げていく。
 前立腺を擦ると、ヤニックが喘いだ。彼は軽く手をくちびるへ当てる。その指先を取って、ロビーは舌でなめた。指先へキスをすると、彼のアナルがうごめく。
「ヤニック、今日はつけないでしたい」
 目を開けたヤニックは、小さく頷いた。ロビーはすでに硬くなっているペニスを、アナルへと進めた。強張る彼をリラックスさせるため、手を握り、うなじや胸にキスをする。腰を動かすと、彼の足がロビーの腰へ回った。抱き締めるように腕も伸ばしてくる。ロビーは彼を抱き締め返して、中で絶頂を迎えた。
 二人でシャワーを浴びた後、ヤニックは泣いたせいもあり、すぐに眠った。ロビーは彼の寝顔を見つめながら、彼の薬指にある指輪へ触れる。自分の薬指を当てると、指輪同士が音を立てた。
 ついた嘘の責任は負う。ロビーは泣きながら、ヤニックのくちびるへキスをした。嘘の許しを請い、もう一度、生涯、彼を愛し、幸せにすることを誓うためのキスだった。

番外編4 番外編6(本編後から番外編1までの間くらい/ヤニック視点)

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