あおにしずむ47 | ナノ





あおにしずむ47

「ロビー、人が真剣な話をしてるのに、ちゃんと聞いてよ」
 睨んでも効果がないらしく、ロビーは少しの間、笑っていた。
「ごめん、ごめん。だって、君がおかしなこと言うから」
「おかしい?」
 ヤニックが尋ねると、ロビーは頷いた。
「これが終わったら、こうするとか、そんなふうにいかないのが、恋愛だよ。どうして、急ぐ必要があるの?」
「だって……」
 ロビーが指先の背で頬をなでてくれる。
「我慢させてる」
「何を?」
 ヤニックはそっと視線を壁へ向けた。
「その、せ、セックスを、我慢させてる」
「あー……」
 ロビーは左手で額を押さえた。
「そうか、それで、もったいぶる、か。分かった」
 納得して頷いたロビーは、寝転んでいた姿勢を正した。必然的にヤニックの腕枕が消える。そして、彼はヤニックのことも座らせた。ベッドの上で互いにあぐらをかいている。彼の瞳がきらきらと輝き始めた。それが涙なのだと気づいた時、彼はほほ笑みを浮かべた。
「ヤニック、今度、すごくすごくすごーく、暇な時、俺がいつから、どんなふうに君を好きになったか聞かせてあげる。それから、真面目に言うと、俺は君を傷つけた人間は全員殺してやりたいくらい憎い。君が学校で助けを求めていた時、自分のことばっかりで気づけなかった俺自身も憎い。だけど、君は俺を励ましてくれた。俺のことを選んでくれた。それだけでもう十分だよ」
 ロビーは涙を拭わずに、目を閉じてヤニックのくちびるへキスをくれた。顎の先に涙がつく。ヤニックは自分の顎についた彼の涙へ触れた。自分も泣いていることに気づいた。
「でも、俺、あなたとしたいって思ってる」
 ロビーに与えられるなら、きっと痛くても平気だと思う。彼はにっこり笑って、涙を拭ってくれた。
「ありがとう。俺も君としたいって思ってるよ。だけど、それはいつ、どこで、やるって決めてすることじゃない。その時が来たら、自然にそうなるものなんだ。だから、君が負い目を感じたり、焦ったりする必要はない」
 流されずに自分を大事にするように言われて、ヤニックは泣きながらロビーに抱きついた。彼はいつも受け入れてくれる。何もないちっぽけな自分に最高の価値があるみたいに信じさせてくれる。彼の熱を感じながら眠ると、夢の中ではヤグルマソウが咲き乱れていた。

 大きな街へ出ることがなかったヤニックに、首都はまるで異なる国のように映った。会場になっているフローリスト協会の建物には、朝から大勢の人達が来ていた。普段着で大丈夫と言われていたので、ヤニックはいつも通り、ジーンズとTシャツを選んだ。ロビーもダークグリーンのズボンにチェック柄のシャツという組み合わせで、農園で仕事して帰ってきたと言っても疑わないくらい、いつも通りの格好だった。
 協会側がデッサンに描かれている草花や材料、道具を用意してくれている。会場の中に入ると、さらに熱気が増していた。部門によってはすでに完成した物を展示しているが、ブーケは制限時間内にその場で作ることになっている。ヤニックは渡されていた番号と一致するブースへ入る前に、ロビーと祖母を振り返った。二人に抱き締めてもらい、ブースへ入る。
 この日に間に合うように名刺を作ってもらっていた。ベイダーソン園芸農園フローリストと描かれた下にヤニックの名前が入っている。まだフローリスト見習いだが、資格を取ったら、フラワーデザイナーに変更しようと言われた。
 名刺は必要ないと思う。だが、会場入りしてみると、各界の著名人がいて、この業界では有名な祖母はすぐに囲まれていった。彼女はロビーと一緒に隠れようとしたヤニックを引っ張り、堂々と、「私の弟子です」と紹介した。おそらく顔が引きつったのだろう。様子を見ていたロビーが吹き出していた。
 作品を作っている最中は誰も注目していない。そう言い聞かせても、様々な雑音は耳に入る。ベイダーソン園芸農園の恥にならないように、と思うと手が震えた。今日まで何度もアトリエに入って、ブーケを作る練習はしてきた。ヤニックはデッサンに視線を落としてから、前を見た。ロビーの瞳が優しく見守るように自分を見ている。

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