あおにしずむ46 | ナノ





あおにしずむ46

 一次予選通過の通知が六月初旬に届いた。ロビーのところで働き始めて三ヶ月も経っていなかったが、ヤニックは熱心に働き、フローリストとしての知識を蓄えることに専念していた。
 デッサンの中から、いくつか厳選したものを祖母と一緒に吟味して、実際に使用する草花や装飾に必要なリボンやフィルムも考え抜いた。一次予選に通っただけでも、ヤニックとしてはこの上なく嬉しいことだった。
 もともと成績はよくなく、運動もできるほうではないため、学校で褒められることがほとんどなかった。だが、フラワーデザインという世界で、自分が思い描いたものが認められて、ヤニックは初めて高揚感を味わうことができた。
 コンテスト会場は首都のため、電車か飛行機を使って行かなければならない。二週間後に控えた日程に、ヤニックはかなり慌てていた。デッサンのコピーをベッドの上で眺めていると、隣に寝転んだロビーがのぞき込んでくる。
 ロビーのベッドは古かったため、ヤニックが住み始めた四月中に、新しいものへ買い替えた。以前のものより大きめのベッドは、二人が一緒に寝転んでも狭くない。最初の頃はヤニックが一人で寝ていたが、いつまでもソファで眠るロビーを不憫に思い、ヤニックが折れた。
 ロビーはいつも悠然としていて、ヤニックに対してはことさら優しく接してくれる。いつまでもキス止まりではいけないと思うが、ヤニックはその優しさに甘えていた。今でもクラブのロッカールームに一人でいる夢を見ることがある。うなされると、すぐに彼が起こしてくれた。
「このブルエの青、素敵だね」
 ヤグルマソウの青を見ていたロビーが小さな笑みを浮かべた。緊張と興奮から疲労している心が落ち着くのを感じる。彼の笑顔は自分にとって、とても効果のある薬みたいだ。
 コンテスト前日に飛行機でここを発ち、当日の夜にはまた戻ってくる。ロビーと祖母が一緒にきてくれることになっている。心強い半面、何か失態をやれば、彼らの前だから隠しきれない。
「ロビー……」
「ん?」
 仰向けに転がったロビーがこちらへ視線だけ向ける。ヤニックはデッサンを窓際に置いて、同じように仰向けになった。彼の右腕が首の下へ入り、腕枕をしてくれた。
「このコンテストが終わったら、その、もう少し、か、関係、進めて……」
 ヤニック自身があまりそういったことに興味がなかったせいもあり、性欲に関してはかなり薄く、疎かった。くわえてティム達から受けた屈辱が邪魔をして、二人の関係はまったく進まない。
 ヤニックはそれで満たされる。頬や指先にキスを受けるだけで、どきどきして、自分は本当に彼が好きだと自覚する。くちびるへキスをされたら、それだけで幸せな気分で眠ることができた。だが、それで満たされているのは自分だけだと知り、少なからずショックは受けていた。
 直接ロビーが言ったわけではない。テレビを見ている時に街頭アンケートのような番組があり、その中で夫婦生活円満の秘訣という話をしていた。夫婦生活と言っていたが、街頭アンケートでは実際にカップルにも質問をしていて、どんなに少なくても週に二回か三回はセックスをする、という結果が出ていた。
 ヤニックは頭では、あれは男女の話であり、同性同士の話ではないと言い聞かせていた。週二回も三回もあんなに痛い思いをしないといけない。そのことを考えると溜息が出る。血が出ることも考えると、体が震えた。それでも、好きな相手となら、皆、我慢してするのか、と思いをめぐらせて、ヤニックはようやく関係を進めることを決意した。
 右腕をヤニックの頭に貸したまま、ロビーが体を横にした。ブロンドの瞳が見下ろしている。ヤニックはくちびるを湿らせた。
「もういい加減、待たせてる気がするから、俺、別に初めてでもないくせに、ちょっともったいぶり過ぎ、だよね」
 ロビーが左の人差指を立てて、ゆっくりとヤニックの鼻へ近づけてくる。近づく指先を見つめると、彼は吹き出した。
「変な顔!」
 鼻を押したロビーの人差指をつかんで、ヤニックはむっとする。

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