あおにしずむ37 | ナノ





あおにしずむ37

 ロビーの祖母が昼食を用意していたが、ロビーは先に手当てをすると言った。擦り傷になっている肩を消毒した後、服で擦れないように大きな絆創膏を貼られる。彼は終始無言だったが、昼食の間はヤニックのリースのことや今年のチューリップの出来について祖母へ話していた。
 明日は土曜のため、朝市がある。午後の水やりまでの時間、ヤニックはロビーと一緒に外へ出た。彼はついて来て欲しくなさそうだったが、ヤニックは気づかないふりをした。
 午後はたいていロビーの祖母と過ごすため、ロビーが外で何をしているのか知らなかった。彼は汗だくになりながら、太陽の下で土の様子を見たり、雑草を抜いたりしている。
 草花の他に、数は少ないが、野菜の苗も育てていた。ロビーは虫がついていないか確認している。作業の合間に、時おり、客がやって来て、彼を呼んだ。そのたびに彼は立ち上がり、客のところへ駆けていく。
 ヤニックはビニールハウスではなく、外の畑の雑草抜きを手伝うことにした。雑草を抜きながら、ティムのことを考えようとするが、すぐにアナルの痛みを思い出した。幻覚だと分かっているのに、胃から突き上げてくるような痛みを覚える。
 相手に好意を持っていなくてもセックスはできると知っていた。ヤニックは抜いたばかりの雑草を握り締める。ティムの触れるだけのキスは、ロビーがくれたキスと似ていた。だが、ティムが自分のことを思っていたなら、あんな酷いことはできないはずだ。
 あれは愛のない性行為だった。ヤニックにとってはレイプだった。
「……ヤニック!」
 ロビーがそっと肩へ触れる。視線を上げると視界が揺れていた。彼は眉間にしわを寄せている。
「苗まで抜いてるよ?」
 注意されて、ヤニックは慌てて手を離した。
「ごめんなさい、俺、何か……」
 めまいがする、と言いたかったが、呂律が回らない。歪んだ世界に倒れたら、暗闇が訪れた。

 昔は、ずっと変わらないでいられると思っていた。大人になっても四人そろって馬鹿なことをして過ごせると思っていた。皆、安月給で働いて、仕事の後に愚痴と生活のストレスを発散するためにバーへ行って酒を飲む。結婚して、子どもができたら、週末は誰かの家でバーベキューしたり、釣りに行ったりするのだと想像していた。
 今はそういう未来をまったく想像できない。いつか自分を傷つけた連中を許せる日がくるとも思えない。ヤニックはただ怖かった。自分を犯したサッカークラブの人間も、決して犯さなかったが、口へ突っ込んだパックも、笑いながら自分を傷つけるウェインも、皆、怖かった。
 ティムは親友だった。裏切ったのは自分だと言った。だが、ヤニックにはまだ分からない。ヤニックは、だから、自分は彼をいらつかせたのかと考えた。親友なのに、彼のことが分からなかったから、彼は怒ったのだろうか。ロビーのことは、本当は関係なくて、ただ自分に怒っていた。そうだとしたら、彼の気持ちを理解できる。最初はロビーに向いていた怒りが、自分へ向いたことには気づいているからだ。
 ヤニックは明瞭になった思考に、瞳を開けた。小さな寝息を立てているロビーがいる。彼はベッドのそばへ椅子を持ってきて、そこに座って居眠りをしていた。
 明日も早いのに、ベッドはヤニックが占領している。ヤニックは申し訳なく思い、起き上がった。
「ヤニック」
 ロビーが目を覚まし、安堵した声で名前を呼んだ。
「ごめん」
 ヤニックが謝ると、ロビーは首を横に振る。テーブルにあったペットボトルを取り、彼はふたを開けて水を飲ませてくれる。
「俺の不注意だ。君は真面目だから、外に出したら一心不乱に雑草抜きしそうだったし、この時期の陽射しは真夏より厄介だって知ってたのに、帽子を渡し忘れた」
 ロビーの指先が頬に触れる。
「今日はありがとう。それから、ごめん」
 ベッドの縁に腰かけたロビーは、指の背でヤニックの頬をなでた後、髪を耳へかけてくれる。耳のうしろへ回った指先が、優しく肩へ触れた。ヤニックは少しだけくちびるを噛んだ。

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