あおにしずむ33 | ナノ





あおにしずむ33

 泣きながら朝食を終えたヤニックに、ロビーの祖母は何も聞かずにいてくれた。食器を下げた後、外に出て、ロビーのところへ行く。彼はガレージよりも向こうにあるビニールハウスの中で作業していた。
 チューリップのハウスの中は明け方のせいか、外よりも若干ひんやりとしていた。球根から育てて売り物にしているのはチューリップだけで、早朝につぼみの美しいものだけを収穫して、球根を切ってしまうのだそうだ。球根は今秋、植えてまた育てる。花は市内の花屋や得意先へ届けている。
 等級落ちした花を球根ごと取ったロビーが、こちらへ視線を向ける。ハウスの隅にあるパンジーの苗が、もうすぐ花を咲かせようとしていた。
「手伝うよ」
 ヤニックが言うと、ロビーは頷いて立ち上がる。
「こっち」
 ヤニックはロビーから等級落ちになるチューリップの見分け方を説明してもらう。学校以外でこんなふうに話すことがなかったため、不思議な気持ちになった。
 この園芸農園では様々な種類の草花を扱っている。その苗を見極めて購入し、育ててきたロビーの祖父とロビー自身の目利きは大したものだと言われていた。ヤニックは直接聞いたわけではないが、実際にこの州周辺ではそこそこ名の知れた農園だった。
 ロビーは今、その名を肩に背負っている。プレッシャーとは無縁そうな優しい笑みを浮かべながら、彼はチューリップの球根をバケツへ入れた。
 昼食をとった後は畑に出なくていいと言われた。代わりに、祖母のアトリエへ行くようにと言い渡される。彼女に手を引かれ、裏庭の小屋へ入る。
「わぁ」
 アトリエにはたくさんの花や小物が並んでいた。ドライフラワーやポプリはすべて手作りだと分かる。デザイン画も散らばっており、色とりどりのリボンやフィルムも置かれていた。
「しばらく休んでいたけど、そろそろ再開しないとねぇ」
 壁にある証書の文字を読み上げると、彼女は笑う。
「誰でも取れる資格よ」
 ヤニックはイースター用の飾りの作り方を教えてもらった。リースを作る作業は予想以上に力がいる。土台は藁を干したもので覆われ、上からウサギやイースターエッグがモチーフの布が被せられ、ドーナツ型の土台へ縫いつけられていた。そこへ、ドライフラワーや小物を配置していく。
「生の花で作るリースはイースター当日しかできないの。今年は頼もしい助っ人がいるから嬉しいわ」
 ヤニックは彼女の手元を真似ながら、一つずつ丁寧に作業する。没頭していたのか、いつの間にか、彼女が用意してくれた紅茶が冷めていた。それでも、続けていると、ロビーが開いているドアをノックする。彼に笑みを向けると、彼はしばらくこちらを凝視していた。
「ロビー?」
 声をかけると、ロビーはようやく中へ入ってくる。
「ごめん、見惚れてた」
 恥ずかしげもなく言うロビーに、今度はヤニックが彼を凝視した。彼は小さく笑うと、頬にかすめるだけのキスをくれる。
「服、取りにいく?」
「あ、うん。あの、母さんに何て言ったか、知ってる?」
「休暇中、住み込みでアルバイトして欲しいって言ってたよ」
 ロビーは手にしていたフリージアやスイートピーなどの花々をテーブルへ置き、ヤニックにその中から一つの花を渡した。
「きれい」
「ロメリアだよ」
 ロビーがくれたロメリアは小さな花弁の先を薄桃色に染めた白い花だった。彼は残りの花で小さなブーケを作り始める。
「あなたもフラワーデザイナーの資格、持ってるの?」
「いや、持ってない。ばあちゃんの見よう見まね。君は手が器用だね」
 作りかけのリースに、ロビーがそう言った。リースを作るのは初めてだが、褒められると、気分が明るくなる。
「行こうか」

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