あおにしずむ31 | ナノ





あおにしずむ31

 ロビーはまるで彼自身が痛みを持っているかのように、涙を流した。
「俺のせいだね。俺が話かけたから」
「違う、本当に違うんだ。色んなことが重なって、それで、ティム達とうまくやり直せない状態で、あなたが原因じゃない」
 そう言っても、ロビーは納得しなかった。
「いきなりやせたから、驚いてたんだ。だけど、自分のことばっかりで、君までちゃんと見てなかった。ごめん。好きだなんて言いながら、君を一人ぼっちにしてた」
 一人ぼっち、と言われた瞬間、ヤニックの涙腺から涙が洪水みたいにあふれた。学校で感じる視線や暴力や苦痛の中で、ヤニックはいつも一人だった。これから先、ロビーがいない学校で、あの恐怖にどうして耐えたらいいのだろう。
「ろ、ロビー、おれ、がっこ、いく、っやだ」
 母親にすら言えない言葉が噴出する。ヤニックは子どもみたいに大声で泣いた。学校に行くのが怖いと訴えた。ロビーの祖母が泣き声に驚いて、部屋をのぞきに来たことは知らない。ただロビーが優しく労わるように体を抱いてくれた。
 ひとしきり泣くと、少し心が軽くなったが、イースター前のロビーに迷惑をかけまいとヤニックは立ち上がる。彼の手がまだヤニックの手を握っていた。
「ヤニック」
「ごめん、帰るよ」
 幸い、休暇に入るから、その間に自分の精神を取り戻そうと思った。学校を辞めたいなんて、ロビーに泣きついても彼を困らせるだけだ。
「待って。どうせ休暇に入るんだから、ここにいたらいい。お母さんは夜勤?」
 頷くと、ロビーは笑みを見せる。握っていた手に力が込められた。
「アルバイトの件、他にまだ見つけてないから、手伝ってくれる?」
 ヤニックは頷いたが、頷きながら色々なことを考えた。自分から働きたいと言ったこと、自分のために泣いたロビーのブロンドの瞳、つながった手の温もり、すべてが穏やかで愛しい。
「よかった。おいで」
 ソファへ戻ると、ロビーがそっと抱き締めてくれる。
「腫れてる」
 ロビーはまぶたの上の前髪をサイドに分けてくれた。惚けているヤニックを見て、彼は笑いながら指先で鼻をつまんだ。子どもの頃、よくした遊びだった。
「わっ」
 慌てて鼻を押さえると、「もう遅いよ」とロビーがとった鼻を遠くへ投げるふりをする。ヤニックは子どもみたいな彼を笑った。彼も笑ってくれる。
「お鼻がない子の腫れた目に、濡れタオル用意しなくちゃ」
 ロビーはおどけながら立ち上がり、部屋を出ていく。窓辺に並んだ観葉植物の緑に、ヤニックは自然と深呼吸できた。
「ばあちゃんから電話しとくって」
 濡れタオルと交換で携帯電話を渡すと、ロビーが電話帳から母親の番号を見て、彼の携帯電話へ打ち込む。しばらくして戻ってきた携帯電話へ手を伸ばすと、ロビーが電源を落として机の引き出しへしまった。
 ヤニックの伸ばしていた手を握り、ロビーが濡れタオルをまぶたへ当ててくれる。
「気持ちいい?」
「うん」
 タオルで遮られた世界は暗かったが、ヤニックは恐怖を感じなかった。武骨な熱い手がヤニックの手を握り締める。ソファにもたれながら、ヤニックはしだいに眠りに落ちていった。

 自分では寝たという意識はなかった。次に目が覚めた時、すでに外は明るく、ヤニックはベッドの上にいた。ロビーはおそらくソファに寝ていたのだろう。薄い毛布がソファの背もたれにかけてある。時計を見ると、まだ五時だった。窓から外を見やる。仕事着姿のロビーがビニールハウスへ出入りしていた。
 部屋を出て、キッチンの前を通ると、ロビーの祖母を見かける。
「おはようございます」
「あら、おはよう。まだ寝てていいのよ」
 彼女はそう言ってほほ笑む。
「いえ、もう起きます。あの、ロビーを手伝ってきます」
 そう言うと、彼女は首を横に振り、「まずは熱いシャワーを浴びてきなさい」とバスルームへ連れていかれた。

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