あおにしずむ30 | ナノ





あおにしずむ30

 ヤニックは自分の勘違いに気づき、頬を染めた。いとこに対して嫉妬していた。だが、互いに好き合っていたら、自分が入る余地はない。
「どうかした?」
 ロビーが少し屈んで、顔をのぞき込んでくる。ヤニックは首を振ろうとしたが、つい気になっていることを言葉にした。
「この間、駐車場にいた人だから」
 揚げ物をしているのか、キッチンから油の弾ける音が響く。ヤニックの声は小さかったが、ロビーにはちゃんと聞こえたらしい。
「じいちゃんの戸籍手続きをした時だね。確かに、ライルについて来てもらった」
「うん……あの、あ、あの時、抱き合ってたから、てっきり、俺、二人は、そういう」
 ロビーは口元を緩めた後、そっとヤニックの髪をなでた。
「ライルとは兄弟みたいな関係でしかない。俺が好きなのは、君だよ、ヤニック」
 ロビーは左の頬に触れるだけのキスをくれた。それから、もう一度、ヤニックの髪をなでて、「着替えてくる」と笑った。ヤニックは胸元を押さえて、涙でにじむ視界に歯を食いしばる。ロビーは考える時間をくれた。その間も彼は自分のことを好きでいてくれた。とても嬉しいのに、悲しい。原因は分かっている。
 ヤニックはすぐにでも帰りたいと思った。だが、ロビーの祖母が嬉しそうにテーブルの準備を始める。トマトサラダや焼きたてのパンが並び、最後にコルドンブルーが置かれた。
「ロビーの大好物なの」
 着替えてきたロビーがコルドンブルーを見て、目を輝かせる。ヤニックは最近、固形物を食べていなかったが、小さいサイズのものを取り、何とか食べきった。食事の後に手作りのプリンが出てきて、それは問題なく胃におさまった。
「そうだ、君からのプレゼントを開けないと」
 ロビーが立ち上がり、部屋から包みを取ってくる。
「本当に大した物じゃないんだ」
 改まって開封されると、恥ずかしい。ハンドタオルはありきたりで高価な物でもない。だが、ロビーは淡いブルーのそれを見て、満面の笑みを浮かべた。
「ヤニック、ありがとう!」
「淡いブルーがきれいね。ヤニックはセンスがいいわ」
 ロビーがハンドタオルを持ったまま、ヤニックの座る席まで来て、抱き締めてくれた。内出血をしている部位が痛んだが、彼に抱かれている安堵感に、思わず笑みがこぼれる。こんなに幸せな気分は久しぶりだった。
 祖父の墓前でも卒業を報告すると言われ、ヤニックはその後、二人について行き、一緒に墓参りをした。それから、また彼の家に帰り、温かい紅茶を飲みながら、この園芸農園の仕事のことを少し教えてもらった。
「進級、どうだった?」
 ためらいがちに聞かれて、ヤニックはあいまいにほほ笑んだ。ベッドに座っていたロビーはソファに座るヤニックの隣へ来る。
「ダメだった」
「そう」
 ロビーは悲しげに視線を落とす。ヤニックの左手に彼の指先が触れ、前腕部をつかんだ。日射しは強いが、風はまだ冷たいこともあり、ヤニックは七分丈のシャツの上にタンクトップを重ねていた。彼は前腕部の内側を確認するように、ヤニックの腕を持ち上げる。そこにはヤニック自身、気づいていなかったが、青アザがあった。
「このアザ、どうしたの?」
 ヤニックは苦笑する。
「どうしたんだろう。どこかにぶつけたのかな……」
 とぼけてうつむくと、ロビーが顔に触れてきた。彼の優しい瞳が、とても悲しそうに光った後、うるむ。
「同学年の子に聞いた。殴られてたって……俺のせいかな?」
 ヤニックは慌てて首を振り、「あなたのせいじゃない!」と叫んだ。叫んだ後に、自分が暴力を受けていると認めたことに気づいた。

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