あおにしずむ28 | ナノ





あおにしずむ28

 学校から落第通知が来たのは週明けの月曜だった。試験の日から週末を挟んで五日目の日だ。熱が出たため、金曜は休ませてもらい、今日は適当に理由をつけて、また休んだ。母親は体調を崩したヤニックを優しく受け入れてくれた。落第がこたえていると思っているらしい。
 体の痛みはなかなか取れず、何よりヤニックが気になっていたのは、アナルからの出血だった。あふれるほどではないが、まだ続いており、排便の際には痛みを伴っていた。
 相談できる人間がいない。ロビーなら相談できるかもしれないが、どう切り出していいかも分からない。それに、彼は祖父を亡くしたばかりだ。来れたらでいいと言ってくれたが、会いにいけないままだったから、電話することも億劫になる。
 ロビーの祖母なら話せるかもしれないと思ったものの、今のアナルの状態では自転車に乗れず、歩くには距離があり過ぎて、やはり誰にも相談できなかった。薬局で何か鎮痛剤を買おうと思い、ヤニックは財布だけ持って外へ出た。三月下旬は日射しが温かくなるが、風はまだ寒い。いちばん近い薬局へ向かう途中、駐車場に停まっているトラックに足を止めた。
 市内中心部は市役所の駐車場以外に車を停めることができないため、買い物客はよく有料の青空駐車場を使う。どこかにロビーがいるかもしれないと思い、ヤニックは周囲を見回した。百貨店というほど大きくはないが、市内ではいちばん有名なショッピングモールから、見覚えのある淡いブロンドの髪で長身の男が出てきた。
 ロビーだとすぐに分かる。声をかけるつもりはなかった。だが、彼の隣にいる男性にもやもやとした気分になる。ロビーより少し低い、ブロンドの男性だった。二人は駐車場にあるトラックまでたどり着くと、一瞬だけ周囲を警戒するように視線をめぐらせてから、抱き合った。
 ロビーがトラックのウィンドウに彼を押さえつけるようにして、体をあずけると、ブロンドの彼は慰めるようにロビーの髪をなでる。見ていられなくなり、視線を上げて空を見た。本質は変わらないと信じていた。だが、それは嘘だ。
 あの彼のポジションが、ずっと前から欲しかった。ただ認めたくなかっただけだ。それに、ロビーは考える時間をくれた。
 ヤニックは建物の影に隠れて、そっと二人を見つめる。彼はロビーと、あの行為もできるのだ。そのことを考えると、ヤニックは思わず嗚咽を漏らした。ロビーに寄せる好意は自分のほうが大きいはずだ。
 だが、ヤニックはロビーとセックスすることを思うと、体中に残る痛みを想像して、苦しくなった。愛しているなら、あの痛みに耐えなければならない。ヤニックにはできそうになかった。
 自分の心に気づいても、どうしようもない。ロビーはあの彼と付き合っているのだろう。そして、自分はレイプされた。ティム達だけではない。複数の人間とあの行為をしたのだ。それをロビーが知ったら、彼はきっと軽蔑する。息苦しくなり、ヤニックはその場を離れた。
 薬局に入り鎮痛剤が並ぶ棚を目指す。裏面を一通り読んで、一箱だけ手にした。レジ前で睡眠薬を見つけて、それも一緒に購入する。家に帰ってから、ひとまず鎮痛剤を飲んだ。食欲がないことを知っている母親がゼリーを用意してくれている。それを少しだけ食べて、ベッドへ横になった。
 目を閉じると、先ほどの光景が思い出される。誰からも必要とされないことが、こんなにも苦しいことだと知らなかった。ウェインに言われた通り、消えてしまいたい。落第しても卒業すると言った手前、いまさら学校を辞めたいとは言えなかった。
 今週が終わればイースター休暇に入り、二週間の休みの後から、また学校が始まる。今週の木曜にロビーの卒業式があるが、行けそうになかった。母親はイースター後から登校すればいいから、今は体調を戻すようにと言ってくれた。
 だが、本当は学校を辞めたくて仕方なかった。ティム達だけではなく、サッカークラブの連中からもあの行為を強要されたら、と考えると、呼吸が乱れてくる。ロビーがいない学校でこれから先、耐え続けられるか、ヤニックには分からなかった。
 机の引き出しから睡眠薬の箱を取り出す。鎮痛剤を飲んだ後だが、早く眠りたくて、一錠だけ飲んだ。眠くなるまで、ぼんやりと天井を眺めていると、だんだん世界が歪んでくる。やっと眠れる、とヤニックは薬によってもたらされた静寂に安堵した。

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