あおにしずむ26 | ナノ





あおにしずむ26

 顔色が悪いと母親に言われて、ヤニックはバスルームで鏡を見ていた。毛先に向かうほどダークブラウンになっていく髪の根元は明るい。そろそろ染める時期だった。テーブルの上で震えている携帯電話に気づき、ヤニックは電話に出る。ロビーからだ。
「どうしたの、ロビー?」
 ロビーは夜中にかけてくるような非常識な人間ではない。何かあった、と嫌な予感に手が汗ばむ。
「……昨日、じいちゃんが、死んだ」
 絞り出すような声を聞いた時、ヤニックは胸を締めつけられた。
「辛いね」
 何とか一言言うと、ロビーは泣いているのか、鼻をすする。
「本当は昨日の間に言おうと思ったんだけど、色々、あって。明日が埋葬なんだ……来られる?」
 明日は見極めの試験がある。
「進級の見極め試験があるんだ。でも、夜から行ってもいい?」
「いや、ムリに来なくてもいいよ。時間がある時に顔を出してくれたら、ばあちゃんも喜ぶ。最近、どう?」
 普通だ、とこたえてから、少しだけ話して電話を切った。椅子に座って、テーブルに突っ伏す。ロビーのことを励ましたいのに、ヤニック自身どうにもならない状況に陥っている。もうあと一週間ほどしたら、彼は卒業して、学校で会うことはなくなる。そうなったら、自分はどうなるだろう。
 自分のことばかり考えている自分を、ヤニックは嘲笑した。祖父を亡くしたロビーは、これから大変だろう。明日の夜、少しでも彼を励ますことができるように、ヤニックはベッドに入った後、ほほ笑みを浮かべてみた。
 ロビーのことは今でも好きだ。ただ、彼と同じ意味で好きかどうかは、やはりまだ分からない。彼もティム達のように、ペニスをアナルへ入れたいのだろうか。そのことを考えた瞬間、ヤニックはベッドから飛び起きてトイレへ走った。

 眠れない夜が続いていて、つい授業中に眠ってしまうことが多いからか、ヤニックには紙に描かれた図形が模様にしか見えなかった。読書好きで、よく本は読んでいるにもかかわらず、学校で扱う現代文は硬過ぎて、意味の分からない単語が多い。現代文でそう感じるため、古典文学にいたっては意味不明だった。化学も歴史も覚えている範囲でしか書けない。
 試験が終わった後、ヤニックはすっかり消沈していた。これで進級できたら、見極めじたい不要だということになる。母親に何と説明しようかと悩みながら、ヤニックは廊下を歩いていた。通りすがりの生徒がいきなり、肩をつかんで、壁へと押さえつけてくる。いつものことだから、特に驚きもせず、彼が手を放すのを待った。
「進級できそう?」
 意地悪な声音に顔を上げると、サッカークラブの連中が三人、ヤニックを見つめていた。
「関係ない」
 ヤニックは押さえつけている手を払って、廊下を歩き続ける。自分のロッカーへ教科書をしまい、鍵をかけると、振り返った先にウェインがいた。先ほどの三人の他にもまだクラブの連中が周囲にいる。おかしい、と思った時には、ウェインに腕を引かれていた。
「ちょ、ウェイン、何、どこに……?」
 赤い扉が見えてきて、ヤニックは足を止めようとした。今日は活動日ではない。だが、先にロッカールームに入った連中の視線を見て、ヤニックは何とか拘束を振り払おうとする。
「ウェイン、嫌だ!」
 冷たいブルーの瞳が笑っている。
「ティムはおまえのこと、なんだかんだ言ってもまだ気に入ってるんだ。だから、俺達以外に手を出させなかった。だけど、それも今日で終わりだな。皆が進級祝いしてくれるってさ、あ、落第祝いか?」
 強い力で中へ押し込まれる。ウェインが最後に入ってきた後、鍵を閉めた。震えていると、うしろから抱きつかれる。抱きついている男が、リュックサックを落下させた。ヤニックの震えをからかう声がする。
「ウェイン……」
 この中で頼ることができるのはウェインだけだ。彼の名前を呼ぶと、彼は笑った。
「ヤニックはペニスが大好きらしいから、女みたいに犯して欲しいんだって」
 目の前が暗転する。どうして、という問いかけもできないまま、ヤニックの口にガムテープがはられた。

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