あおにしずむ19 | ナノ





あおにしずむ19

 ティムが個室へ入ってきた。ヤニックは助けを求めるように彼へと手を伸ばしたが、それは振り払われる。くちびるを噛み締めて、嗚咽をこらえた。泣いたら、負けだ。心を奮い立たせて、中腰になっていた姿勢をただす。
 こんなふうに暴力を受けるいわれはない。ヤニックはくちびるから流れていた血を手の甲で拭った。
「ティム、俺は、裏切ってなんかないよ」
 ティムは目を細めてこちらを見つめた。それから、リュックサックを引っ張り、ヤニックの体を個室から引き出す。
「昨日、おまえんちの前に行った。許してやろうと思ったんだ。だけど、おまえはあいつと一緒にいただろ。あいつにキスさせてた」
「キスなんかしてないっ」
「そうだな、キスじゃなかった。だけど、おまえら、恋人同士にしか見えなかった」
「恋人同士でもないっ」
 ヤニックが声を上げて否定すると、ウェインが面白がる。
「でも、ケツは掘らせた、とか?」
「そんなこと……」
 こらえていた嗚咽が漏れる。一緒にいた時間は目の前にいる三人のほうが長い。それなのに、流されそうになる弱い自分をもっとも的確な言葉で励ましてくれたのはロビーだった。今は自分の感情と向き合って欲しい、周囲に流されるなと言ってくれた彼の言葉を思い出して、ヤニックは涙を流す。
「ヤニック、俺はもうおまえのこと許せないんだ」
 ティムが秘密の告白をするみたいに、とても小さな声でそう言った。何が気に食わないのだろう。ただロビーと話したことが、そこまで彼を怒らせたのだろうか。ヤニックは涙を拭った後、無駄だと分かっていたが、最後の抵抗をした。
 拳を振り上げて、ティムを個室へ押し込み、ウェインとパックへ攻撃する。すぐにリュックサックをつかまれ、仰向けに押し倒された。顔を二、三度殴られた後、腹を蹴られた。
 クラブのロッカールームへ連れていかれる。大きなケガは打撲くらいだと思われた。男なのだから、痛みは我慢しなくてはいけないとヤニックは拳を固める。ロッカールームへ入ると、パックが鍵をかける前に、ウェインが袋を提げてやってきた。
 ティムがリュックサックを奪い、ヤニックはウェインが手にしている袋を凝視した後、扉のほうへ逃げた。すぐに腕をつかまれ、その場に押さえつけられる。
 三人の視線が怖かった。ヤニックは万歳するように腕をパックに押さえられていた。動く足で蹴りを出そうとした瞬間、ティムが股間に足を置いた。軽く置いただけだったが、ヤニックは恐怖から声を上げる。
「っや、ティム、な、何、やめ……」
 ジーンズ越しにゆっくりと力を感じた。
「口、ふさいどく?」
 ウェインはティムに聞いたが、彼の返事を待たずにガムテームを三度、ヤニックの口の周りへはり重ねた。
「ンっ、ぅんんっ」
 本当は激しく抵抗したい。だが、少しでも動くと、ティムが右足の裏に体重をかけてくる。
「ケツ掘らせてないって? 確認しないとな。でも、その前に、パック!」
 腕を押さえつけていたパックがウェインと交代する。
「彼女をレイプしようとしたんだ。ちゃんと制裁しないとな」
 ヤニックはティムの言葉に耳を疑った。パックの足が太股を押さえる。蹴りは一瞬だった。
「ンぐっ!」
 激しい痛みとともに涙があふれる。股間を蹴られたヤニックは気が遠くなるほどの痛みの中で、笑っているウェインを見た。拘束はなくなったが、床の上を転がりながら、あまりの痛みに体を丸める。
「もう一回だ」

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