あおにしずむ18 | ナノ





あおにしずむ18

 何の落書きもない自分のロッカーを見た時、ヤニックは一瞬、安堵した。だが、外側が無事なだけで、中に何か入っている。鍵はこじ開けられていない。ただ、扉の隙間から甘ったるいにおいが漂っていた。ヤニックは扉の隙間から垂れているジェル状のものを指先ですくい、においをかいだ。甘いにおいはやはり、ジェル状の液体からだ。
 無害そうだが、ぬるぬるとしている。それが何なのか、さっぱり分からない。鍵を開けて中を見た後、すぐに扉を閉めた。タイミングよく、ウェインとパックが左右を挟み込む。
「元気そうだな? もう来ないかと思ってたのに」
 ウェインが肩を抱いてくる。
「放せよ」
 ヤニックがその腕を払うと、ウェインは両手で肩をつかんで、ロッカーへ打ちつけた。大きな音の後、皆の視線が集まるが、すぐそらされる。
「分かりやすい番号だったから、中をおまえ好みに変えたんだ」
 ロッカーの暗証番号は誕生日にしていた。ヤニックは拳を握り締めて、ウェインを殴ろうと手を突き出す。それをパックが押さえこんで、笑いながら、ロッカーを開いた。
「見ろよ。変態ホモ野郎が学校にすげえ物、持ち込んでるぞ!」
 パックの大声にたくさんの目がヤニックのロッカーへ注がれる。ロッカーの中にはローションがまかれていた。さらにいくつもの卑猥な道具が教科書よりも手前に置かれている。ピンクローター、張り型、手錠、そして、男性同士が絡んでいるパッケージのビデオがあった。
 冬休み中、あまりにも平和だったから、すっかり以前と同じだと思い込んでしまった。もしかしたら、いじめがなくなるかもしれないと思っていた。だが、そんなものは幻想でしかない。
 生徒達の好奇と嘲笑の視線を感じながら、ヤニックはロビーが来る前に何とかしなくてはいけないと思った。彼に知られるのは、母親に知られるより嫌だった。ロッカーに押さえつけられた状態で、視界をにじませていると、ティムがパックを押しのけて扉を閉めてくれる。
 ヤニックはすがるようにティムを見た。オレンジブラウンの髪はいつも通り、短く刈られている。ティムはいつも困っているほうの味方をしてくれた。期待を込めて見上げると、彼は笑顔を見せる。
「ティム」
 ティムには分かっているはずだ。自分はティナを傷つけようとはしていない。パックは彼女を信じているが、ティムから話してくれたら、その誤解は解けるはずだ。
「ダメだろ、開けちゃ」
 優しく諭すように、ティムが口を開いた。
「放課後の楽しみなんだから」
 ヤニックは意味が分からず、ただにじんでいく視界でティムの笑顔をとらえ続ける。彼はまるでキスをするように、ヤニックの耳へくちびるを近づけた。
「裏切り者は許さない」
 逃げなくてはいけないと、本能的に体が動いた。だが、三人に囲まれた状態では逃げ場などない。三人はランチの時もヤニックを囲んでいた。一見すると、昔のように四人が一緒にいるだけのようだ。
 ヤニックは視線だけを動かして、必死にロビーを捜した。今日は来ると言っていた。だが、彼が学食に来ることはあまりない上、午前中だけで帰っているはずだ。ヤニックには午後一時間だけ授業がある。それまでに何とか三人を振りきって逃げなければ、軽い暴力では済まされない何かをされる、と感じた。

 放課後、トイレに行って個室へ入り、そこからロビーへ連絡しようと思った。扉を閉めようとすると、足を入れられる。
「な、何、何で?」
「すっかりびくついてるな。別に何もしないって」
 個室の扉を開いたままでは連絡できない。ヤニックが扉を閉めようと躍起になると、ウェインが拳を振り上げて、ヤニックの左頬を殴った。
「ティム! こいつ彼氏に電話しようとしてるー」
 いやらしく笑ったウェインがもう一度、ヤニックの頬を打った。ヤニックは痛みから涙をこぼす。

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