あおにしずむ15 | ナノ





あおにしずむ15

 なす術もなく立ちつくしているロビーの手をそっと握った。彼はしばらく握り返してくれたが、左手をヤニックの肩に置いて、病室を出るように促す。待合室の前にある自動販売機で温かいココアを買ってくれた。
「ありがとう」
 隣同士で座り、ヤニックはココアを一口飲んだ。最近はあんまり食欲がないが、甘い物は別だった。ロビーは親指で額を押さえた後、とても言いにくそうな表情でこちらを見た。
「キス、しただろ、俺の部屋で」
 ロビーのブロンドの瞳が少しかげる。
「俺の噂、知ってる?」
 ヤニックは頷いた。
「それ、本当だから。ヤニック、君に話しかけたのは……君のことが好きだから。でも、君はストレートだって分かってる。キスしたのは、本当に悪かったよ。びっくりして泣いてただろ。本当にごめん」
 視線をそらしたロビーは祈るようにうな垂れた。君のことが好きだから、という言葉が耳にいつまでも残る。わけが分からず、泣きたくなった。
「でも、俺、嫌じゃなかったよ」
 何を口走っているのか、分からない。
「リンドウの花、枯れちゃったけど、あの時、もらった時、すごく」
「ヤニック」
 ロビーは指先でヤニックの涙を拭ってくれた。
「ごめん。俺がキスしたりしたから、君はもしかしたら、ゲイかもしれないって思ってる。でも、それは俺が君を混乱させてるだけだ。さっきも手を握ってくれたけど、あれは友情からだろ? 俺を慰めたいって思った。それは友愛であって、恋愛感情じゃない」
 優しくほほ笑んだロビーが肩を抱き締めてくれた。泣いているだけでは伝わらないのに、ヤニックはずっと泣いていた。あの時、泣いたのは確かにびっくりしたからだ。だが、嫌ではなかった。リンドウの植木鉢をもらった時、とても嬉しかった。自分は彼にとって特別なのだと思った。
 特別がさす意味が異なっていたとしても、ヤニックはロビーのことが好きだ。ゲイではないが、彼が好きだ。彼の他に、誰がここまで自分のことを考えてくれるだろうと思った。学校に彼がいたら、体を押されて倒れる自分を見つけてくれたら、彼はきっと手を貸してくれる。
「俺、あなたのこと、好きだよ」
 泣きながら告げると、ロビーは頷いてくれる。
「分かってる。だけど、今は自分の感情と向き合って欲しい。俺や周囲に流されないで欲しいんだ……君はまだ十六なんだから」
 ロビーはそう言って、額にキスをくれた。
「冬休み中、連絡するから、遊びにおいで」
 ヤニックは頷いた後、ココアをロビーに渡して立ち上がる。送ると言ってくれた彼の申出を断り、一人きりで病院を出た。冷たい風が頬をなでる。彼の言う「好き」は恋人に向けて言う「好き」で、自分の「好き」は友達として「好き」のほうだ。
 今は精神的にまいっているから、思わずロビーの「好き」に合わせてしまいそうになるが、ヤニックにはまだそういう感情はない。ゲイかもしれない、と悩んだ時期はある。彼にキスされた時、びっくりしただけではなく、どきどきもした。だが、それを認めたら、負けてしまう。受信したメールやロッカーの落書きや通りすがる時に浴びせられる言葉が本当だということになる。
 家に帰って部屋へ直行しようとすると、母親に呼び止められた。学校から落第するかもしれないという面倒な手紙が来ていた。
「最近、あんた、おかしいわよ。いったい、どうしたの?」
 いじめられているとは口が裂けても言えなかった。母親は男関係にはだらしないが、片親で育てたことを申し訳なく思っている節がある。今までずっと学校では人気グループに属していて、友達も多い息子のことを自慢に思っているのだ。
「……ごめん。ティム達とケンカしてて、ずっといらいらしてた。イースター休暇までに取り戻すから。それと」
 ヤニックは必死に笑みを浮かべる。

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