あおにしずむ13 | ナノ





あおにしずむ13

「何も。ただ植物を運ぶのを手伝っただけだ」
 ティムが両手を突き出して、肩を突く。右肩により痛みを感じて、ヤニックは左手で右肩をかばった。
「さっきだって、あいつに抱きついてただろ!」
「それはっ」
「ホモ野郎だ」
 ウェインが軽蔑するように言った。指をさして、彼はもっとゆっくりと、まるで烙印を押すように言葉をつむぐ。
「裏切り者」
 悲しいと思うより先に怒りがわいた。ヤニックは拳を握り締めて、ウェインに飛びかかる。ウェインは倒れたが、すぐにうしろからティムによって引き離された。
「いい覚悟だな。謝ったって、もう許さないぞ」
 足を上げて、ウェインを蹴ろうと試みたが、彼は後ずさって避けた。代わりにパックのパンチを頬に食らう。そのままティムの拘束から解放され、床の上に倒れた。服がパスタとサラダで汚れる。
「誰か、このゴミ、掃除しろよ」
 冷笑を感じながら、ヤニックはくちびるの端を手の甲で拭い、自分で掃除した。泣いたら負けだと思う。逃げても負けだと思う。悪いことは何もしていない。堂々としていなくてはいけない。ヤニックは掃除を終えて、立ち上がる。サラダだけを買い直して、隅の席で静かに口を動かした。

 月曜と木曜のクラブに顔を出さなくなって、二週間後、ロッカーへ教科書を入れていると、ウェインが中にあったユニフォームを引っ張り出した。ロッカーへの落書きや軽い暴力は日常茶飯事になっている。ヤニックはめげそうになる心を奮い立たせて、毎日学校へ来ていた。
 週末にロビーの家を訪ねたいと思ったが、祖父の世話や仕事のことで多忙を極めている彼の負担になるかもしれないため、先週はやめていた。今週も行くつもりはない。
「返せよ」
 ウェインはサッカークラブの仲間達にユニフォームを渡し、目の前でハサミを使って切り裂いた。
「おまえはもう部員じゃない」
 ヤニックは怒る気力もなく、溜息だけついた。戻れると信じているわけではない。ユニフォームなんて、どうでもよかった。その態度が気に食わなかったのか、ウェインが思いきり体をぶつけてくる。
 ロッカーに押さえつけられて、ひざ蹴りを腹へ入れられた。せき込むと、彼は満足したらしく、仲間達と去っていく。切り裂かれたユニフォームを拾ってリュックサックへしまう。周囲に笑われている気がして、視線を上げることができなかった。
 自転車では登校しなくなった。パンクを修理するのが面倒になったからだ。歩いて帰宅すると、夜勤前の母親が恋人のクリストファーとキスをしていた。家の中だ。別に怒る必要はない。だが、ヤニックはむしょうに腹が立った。
「あばずれ」
 小さく汚い言葉を吐くと、クリストファーが呼び止める。母親はショックを受けていた。
「何だよ、もう父親面? おまえなんか認めないから」
 部屋に入って鍵をかけ、音楽を大音量にした。最近、反抗期みたいだと話しているのを知っている。思春期は難しい年頃だと言っていた。
「そんなんじゃない」
 ヤニックはベッドへ寝転ぶ。アザになっている部位が痛んだ。電源を切っている携帯電話を立ち上げると、たくさんのメールを受信していた。開かなくてもいいのに、一つずつ開いて傷ついていく。
 目尻から耳へ涙がこぼれた。冬休みに入るまでの我慢だと言い聞かせる。ヤニックはベッドから起き上がり、昔のアルバムを出した。まだ幼いティム達の写真が並んでいる。その中で自分達は馬鹿みたいに笑っていた。本質は変わらないのだと、窓から見える空を見上げた。窓辺に置いていたリンドウはもう枯れている。いらいらとして、ヤニックは植木鉢ごとゴミ箱へ捨てた。

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