あおにしずむ11 | ナノ





あおにしずむ11

 ロビーと一緒に外へ出ると、彼はうしろを振り返り、祖父の姿を確認した。
「最近、調子が悪いんだ」
 心配そうに言った後、家の中へ促される。
「ばあちゃん、俺の部屋で食べるから」
 キッチンのほうへ顔を出したロビーが、奥を指さす。彼の家は平屋だった。リビングの向こうにはガラス張りの温室が見える。思わず見とれていると、彼が背中を押した。
「温室でもいいけど」
「見てきてもいい?」
 観葉植物の植木鉢が並んだ温室は、秋の日射しを受けてきらきらと輝いていた。木製の本棚とその横には作業台があり、古びた缶が並んでいる。
「紅茶が入ってる」
 ロビーが缶の一つを開けて、中の茶葉の香りをかいだ。ヤニックにもかがせてくれる。
「いいにおい」
「紅茶は好き?」
 頷くと、ロビーは缶を持ってキッチンへ行く。開いている窓から外を見ると、森が広がっていた。市内から南西方向に抜けているため、ヤニックがよく行く土手とは反対方向だ。
「晴れの日もいいけど、雨の日もいい」
 ロビーの声に振り返ると、彼は上を見た。
「雨の音が響いて、読書にもってこいの日になる。クッキー、用意できたよ」
 ヤニックはロビーの背中を追って、彼の部屋へ入った。きしんだ床に足を止めると、「大丈夫」と彼が笑う。
「ちょっと古いんだ。でも、抜けたりしないから」
 幾何学模様の絨毯の上にはブラウンのソファがあり、二人はそこに座った。紅茶を一口飲み、クッキーを頬張る。
「おいしい」
 ロビーは笑みを見せた。
「ばあちゃんの手作りなんだ」
 ヤニックは不意に今朝食べたニシンの酢漬けとオニオンのことを思い出した。
「俺、オニオン臭い?」
 紅茶を飲もうとしていたロビーが、瞬きを繰り返す。ヤニックはもう一枚クッキーを手にした。
「ニシンの酢漬け、オニオン抜きじゃおいしくないから、いっぱい入れてもらったんだ。そしたら、オニオン臭くてキスできないって言われて……彼女とキスなんかしたいと思わないけど」
 クッキーを頬張ると、ロビーが真剣な眼差しでこちらを見ていた。彼の指先がヤニックのくちびるをなでる。クッキーのくずがついているのかと思った。だが、次の瞬間、目を閉じた彼の顔が近づき、くちびるにキスされていた。ヤニックは目を開いたまま、突然のことに驚いていた。
「オニオンのにおい。でも、甘い」
 小さくて低いロビーの声を聞いた瞬間、ヤニックは頬をつたう涙に触れた。どうして泣いているのか、自分でも分からない。慌てたのは彼のほうだ。
「っ、ごめん。ヤニック、本当にごめん」
 あまりにもうろたえられて、ヤニックは不安になった。今のはファーストキスだった。だが、ロビーのキスは嫌ではなかった。ヤニック自身もうろたえていると、彼の手が肩をつかんだ。
「本当にごめんな。今の忘れて。それと、学校でなるべく話かけないようにする。俺は来年、卒業だけど、君はまだだし、俺のせいで変な噂が流れたら嫌だから」
 送るよ、と続けて、ロビーは立ち上がった。トラックで家の前まで送ってくれたが、ヤニックは道中、何を話したのか、よく覚えていない。キスした時に見た、彼の長いブロンドのまつ毛や、頬に感じた吐息だけを覚えていた。

10 12

main
top


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -