あおにしずむ10 | ナノ





あおにしずむ10

 ヤニックはそっと彼女の肩に触れて、謝罪した。女子のことはさっぱり見当がつかない。だが、自分の態度が傷つけたなら、謝るべきだと思った。
「ごめん。俺、その、あんまり、分からなくて」
 彼女が涙で濡れた目でこちらを見た。パックが言う通り、彼女は可愛い。だが、やはり好きという気持ちはわいてこない。恋愛事はまだ自分には早いのだろう。ヤニックはお詫びとして、ランチをおごると言った。
「いらない。食べ物で釣れるのは、三軍だけよ」
 彼女が校内で嫌われている生徒達を三軍と名づけたことに、ヤニックは生理的な嫌悪を感じた。
「どうせその花、ロビーのところで買ったんでしょ? 違うとか言って、本当はそうなんでしょ?」
「違うよ」
「じゃあ、私とセックスできる?」
「……好きじゃない子とはしない」
「ヤニック、あなたのいいところは顔だけね。幼稚過ぎて話にならない」
 彼女は踵を返して、どこかへ電話をかけながら去っていく。ヤニックは拳を握り締めた。虚しさに襲われて、立ちつくす。ゴミ箱の中のリンドウの青が視界に入った。それを取り出して、脇に抱える。
 朝市のほうへ戻ると、まだ賑わいがあり、朝よりも人が増えていた。ヤニックはスーパーへ入り、飲み物を買う。甘ったるい炭酸飲料水を飲みながら、ロビーの店へ向かった。
「あれ?」
 客の相手を終えたばかりのロビーが、こちらを見て、驚く。
「デートは?」
 ヤニックは視線を落とした。
「このリンドウ、俺がもらってもいい?」
「もちろん。その青、君のほうが似合う」
 ロビーはそう言って、笑顔を見せてくれる。
「時間ある? 今日はもう閉めるから、自転車、持ってこいよ」
 ロビーは何があったか聞かずに、明るい口調で言った。ヤニックが市役所の裏から自転車を取ってくると、彼がトラックへ積んでくれる。彼は次々と植木鉢や花をトラックの荷台へ乗せて、片づけを始めた。ヤニックが手伝うと、礼を言ってくれる。
「ばあちゃん、乗って」
 最後にロビーの祖母が助手席へ乗り込み、ロビーが周囲を見渡す。
「本当は荷台に人を乗せちゃダメなんだ。植木鉢で囲んでるところにしゃがんでくれる? 安全運転するから」
 ヤニックは頷いて、四方を緑で囲ってある場所へ座った。エンジンがかかると、尻の下が揺れ始める。思わず笑うと、コツコツとうしろで音がした。振り返ると、小さな窓からロビーと彼の祖母が親指を立てている。ヤニックが笑うと、彼は前を向いてギアを入れた。
 秋の日射しが緑の間から入る。幻想的な色だった。ヤニックは荷台にいることを忘れて、つかの間のドライブを楽しんだ。先ほどまでの最低な気分が消えていく。
「お疲れ」
 ロビーが手を差し伸べてくれる。大丈夫、と言って、ヤニックは自分で荷台から飛び降りた。彼の家へ来るのはもちろん初めてだ。駐車場からそう離れていないビニールハウスの中へ、彼が荷台の植物を運び出す。ヤニックはその作業を手伝った。
「ヤニック、クッキーは好きかしら?」
 ロビーの祖母が玄関に立っていた。
「はい」
 返事をしてから、ビニールハウスの中へ入ると、ロビーが初老の男性と話をしていた。
「ヤニック、俺のじいちゃん」
 彼の祖父は土で汚れた手をズボンで拭いてから、ヤニックに握手を求めた。
「こんにちは」
 彼の祖母と同じく優しい笑みを浮かべる。
「よく来たね、ゆっくりしていきなさい」

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