あおにしずむ8 | ナノ





あおにしずむ8

 ロビーはわざとヤニックの肩を突いた。後ずさると、「ヤニック!」とティム達が駆けつけようとする音が響く。
「今から言うこと、気にしないで」
 ロビーは小さな声で言った後、ティム達が来てから大声で叫んだ。
「ヤニック、君がこんなことするなんて! 君は違うと思ってたのに! 最低だ!」
「黙れ、ホモ野郎っ。おまえなんか花畑から出てくんな!」
 ティムが言い返すと、ロビーは大げさに肩をすくめて、自転車を押しながら校門を出ていく。ウェインが下品な音を出して笑った。ティムが、「よくやった」と肩を抱いてくれる。ヤニックは足元が崩れそうなほど、悲嘆に暮れた。
 泣きたいのをこらえて、奥歯を噛み締める。本当に泣いていいのは、ロビーであって、自分ではない。彼は気にするなと言ったが、ヤニックは自分が最低な人間であると自覚した。

 ベッドに寝転がり、大音量で音楽を聞きながら、最低な気分に陥った。ロビーの行為は自分のためだと分かっていた。彼は来年、卒業する。家の手伝いで落としている単位を取得するため、時おり、自分達と同じ授業を取っているだけだ。
 ロビーが卒業しても、ヤニックはあと二年は通わなくてはいけない。彼と仲よくするより、同学年のティム達とうまくやるほうがいいに決まっている。だが、ティム達が彼に対して吐く暴言や、度の過ぎたいたずらは許せない。そして、今日、自分は同じことをしたのだ。
 週末にはティナとのデートがある。興味のない相手とデートなんて、憂うつなだけだ。だが、彼女がロビーの自転車のことをばらしたら、せっかくのロビーの行為さえ無駄にしてしまう。
 嫌なことだらけで、ヤニックはうなった。扉をノックする音の後、出勤前の母親が音楽の音量を下げた。
「ヤニック! 近所からうるさく言われるからやめてって何回言ったら分かるの?」
 夜勤が嫌いな母親は不機嫌だった。それとも、恋人とうまくいっていないのだろうか。ヤニックはいらいらしながら、体を起こす。
「俺だって、母さんにうるさく言われて最悪だよ。恋人とうまくいってないからって、俺に当たらないで」
 どうやら図星だったらしい。母親はむっとした様子で、乱暴に扉を閉めた。世界中の幸せが自分以外の人間に分配された気がする。ヤニックはもう一度ベッドへ沈んだ。

 デートの日は土曜だった。朝市のある日だ。ヤニックは早起きをして、市役所前広場まで自転車で行った。朝市はだいたい六時頃から十四時頃まで開かれている。朝の時間帯は北の海から運ばれてくる新鮮な魚を目当てに来る人間が多い。
 花や植物を扱う店は八時頃から売り出しを始めている。ヤニックは自転車を市役所の裏へ置いて、ロビーの店を探した。途中で魚の酢漬けを見つけて、立ち止まる。ヤニックはニシンの酢漬けをパンに挟むのが大好きだった。
 トッピングにオニオンを大量に入れてもらい、それを食べながら歩く。
「朝から魚のサンドウィッチ?」
 笑い声に気づいて振り返ると、ロビーが植木を持って立っていた。どうやら彼の店の前まで来ていたらしい。
「うん。ニシンの酢漬け、大好物なんだ」
 最後の一口を食べた後、ペーパーナプキンで口を拭った。ロビーの店には彼の他におそらく彼の祖母がいた。折りたたみの椅子に座って、編み物をしている。
「おはようございます」
 あいさつをすると、彼女がわざわざ立ち上がってくれた。
「おはよう。おめかししているわね。デートかしら?」
「ばあちゃん、ヤニックはいつもこんな感じだよ。クールな子なんだ」
 植木の配置を変えながら、ロビーが笑う。
「そうなの」
「いや、当たりです。実は今日、ティナとデートなんだ」
 丸めたペーパーナプキンをもてあそびながら言うと、ロビーが片眉を上げた。
「ティナと?」

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