あおにしずむ7 | ナノ





あおにしずむ7

「修理したの、内緒にしてあげるから、デートしようよ」
 ヤニックは肩に食い込んでいたリュックサックを少し肩からずらす。くちびるを湿らせながら、どう切り返そうか考えた。彼女にばらされたら、ティム達との仲に今度こそ決定的な亀裂が入るだろう。
 面倒なことは苦手だ。だからといって、パックが思いを寄せている彼女とデートをしたら、パックを傷つける。迷っていると、彼女がヤニックのポケットからロビーの自転車の鍵を奪った。
「私が渡しておいてあげる」
「いいよ。自分で渡すから」
「……ひょっとして、あなたもなの?」
 含まれた意味に気づき、ヤニックは大きく首を横に振る。
「違うよ!」
「そう? なら、私とデートしよう?」
「何で、俺? パックが気にしてるの知ってるだろ?」
 彼女は小首を傾げて、「見た目」と一言だけ告げた。
「あなた、可愛いもの。むさ苦しい人は嫌」
 ロビーの鍵を指先でくるくるともてあそびながら、彼女はデートの日時を一方的に宣言する。早朝から気分が沈んだ。

 なるべくロビーと視線を合わせないようにして、一日を過ごした。ティナがロビーへ鍵を渡してくれて、代わりに自分の鍵を返してもらった。それを受け取ろうとすると、彼女は、「約束ね」と念押しする。ヤニックは力なく頷いた。
「ヤニック」
 今日はもう誰とも話したくない。さっさと帰ろうとすると、ティム達が追いかけてくる。
「何、急いでるんだ?」
「ちょっと……」
 鍵を開けて、自転車を出そうとすると、ウェインが後輪を足で押さえる。
「テストする」
「え?」
 ティムが親指でロビーの自転車をさした。ちょうどロビーがさっそうと歩いてくる。ウェインがリュックサックからニードルを取り出した。ティムとパックが小さく笑う。拒否しようと口を開く前に、ティムが言った。
「パンクさせてこい。やらなかったら、おまえもあのホモ野郎の仲間だとみなす」
 ウェインがヤニックの腕を取り、右手にニードルを握らせてくれる。三人の視線には期待が込められていた。やるだろう、という期待と、その逆を選んで落ちるのかも、という期待だ。
 ヤニックはふらふらとロビーの前に立つ。
「ヤニック」
 ロビーは親しみを込めた声で、自分の名前を呼んでくれた。視線を合わせられない。秋の涼しい風は心地いいはずなのに、ヤニックの額からは汗が流れていた。本人を前にして、できるわけがない。振り返ると、三人がこちらを見ている。ティムが拳を前に突き出した。
「あぁ、そうか」
 ロビーが納得したと頷く。
「ヤニック、いいよ」
 優しい声に視線を上げると、ロビーの髪と同じブロンドの瞳が労わるようにこちらを見下ろしている。
「でも、前輪はダメだ。せっかく君が直したんだから」
 ロビーはそう言ってウィンクをした。視界がにじむ。彼はとても善良で優しい。どうして、ティム達は嫌うのだろう。
「泣かないで。俺のことはいいから」
 ロビーはそう言うと、三人からは見えないように、ヤニックの手を握った。そのまま後輪をニードルで突き刺す。右腕を握る彼の手は土で汚れていた。花々を触るせいか、刺による無数の傷がある。彼はヤニックの腕を引いた。後輪からニードルが離れる。

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