あおにしずむ6 | ナノ





あおにしずむ6

 ランニングをした後、ティムの向かいに立ってパスを要求すると無視された。ヤニックは、隣に立っているティムの相手に代わって欲しいと伝える。彼はすぐに代わってくれたが、ティムはパスを寄越してくれない。
「ティム」
 手を叩いても、ティムはこちらを見ているだけだ。
「ティム」
 汗を腕で拭いながら近づくと、ティムは両手を挙げた。
「何だよ?」
 ヤニックは聞かなくても分かっていた。ロビーと話したからだ。パックの圧力から助けてくれた時は昔と同じティムだったのに、また違うティムに変わった。うろたえないように、余裕の笑みを作って見せる。
「パンクしてたんだ。困ってたから助けただけ」
 ティムは眉間にしわを寄せたまま、不満そうにしている。不穏な空気を読んで、ウェインとパックがパス練習を中断してきてくれた。
「どうした?」
「別に」
 とげとげしい調子でティムが言う。パックが大げさに溜息をついた。
「ヤニック、勘弁してくれって言っただろ」
「何で俺? 俺はただ、パンクしてたから、ロビーに自転車を貸しただけだろ」
 ウェインがそれを聞いて吹き出した。
「バッカじゃねぇの? パンクさせたの、俺なんだけど?」
 両手を掲げたウェインに、ティムとパックがそれぞれハイタッチをした。ヤニックは心臓が痛くなるような気分で、三人を見上げる。
「信じられない。俺達、もう十六だよ? くだらないことして、面白い?」
「信じられない。俺達、もう十六だよ? 助け合い運動、マジ、寒い」
 ウェインはいつだって、こういう感じでからかってくるが、今はこたえた。いつもなら含まれている優しさがない。本気で馬鹿にしている。パックは苦々しい顔をしていた。ティムは憮然とした口調で命令する。
「あいつとしゃべんな」
 命令するな、と言える状況ではなかった。友達三人に囲まれて、それでも、我を通せるほど、ヤニックは強くない。頷いたら、拳を差し出される。ヤニックも拳を差し出して、二回当てた。自分を偽っているような、奇妙な感じだった。

 帰り際にロビーの自転車を持っていくことはできそうになかった。ヤニックは一度、家へ帰るふりをして、学校へ戻り、彼の自転車を押す。部屋へ荷物を置いてから、駐車場のほうへ自転車を持っていき、自分のところの車庫を開けた。
 車庫とはいっても、物置き場みたいなもので、鍵を開けて扉を持ち上げると、埃が舞い、カビの臭いがした。電気をつけ、どこかにあるはずの予備チューブを探す。先にバケツを見つけて、水をくみに上がった。
 前輪のチューブを交換した後、後輪の確認もしておいた。明日は誰よりも早く登校して、この自転車を自転車置場へ戻しておかなくてはいけない。当分の間、ロビーとは話さないでいようと思っている。ティムと二人だけの時なら、もう一度、どうして彼のことを毛嫌いするのか聞けるはずだ。
 翌朝、早起きしたヤニックは自転車に乗って登校した。自転車置場へ自転車を停め、鍵をかけ、急いでロビーのロッカーへ向かおうとした時、ティナの存在に気づいた。
「あ……ティナ、おはよう。昨日はごめん」
 ロビーの鍵をそっとポケットへ入れて、ヤニックは平静を装う。彼女は少し腫れたまぶたにかかる前髪を指で払い、小さな声で言った。
「それ、ロビーの自転車でしょ? 修理したの?」
 ヤニックは少し考えた。
「ウェインがパンクさせてるの、見たから」
「あ、そうなんだ」
 彼女はくちびるを噛んだ後、何かをひらめいたように、瞳を輝かせた。

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