あおにしずむ3 | ナノ





あおにしずむ3

 学食でランチを食べた後、ヤニックはすでに食べ終わっていたティムのトレイも重ねて立ち上がる。
「悪い」
 携帯電話をいじっていたティムが顔を上げた。
「いいよ。ついでだから」
 返却した後、ヤニックは飲み物を買った。しゃがんで取り出し口に手を突っ込んでいると、よれたジーンズが見える。
「ちょっと待って」
 缶が縦に落ちてきたらしく取り出しにくい。大きな手が同じように取り出し口に入った。中で彼の手が缶を握る。缶の上からヤニックの手も握っていた。それだけのことなのに、ヤニックは妙に意識する。
「はい」
 ロビーが缶を差し出した。ヤニックの手も一緒だ。
「あ、ありがとう」
 左手もそえたが、ロビーはなかなか手を離さない。
「これ、おいしい?」
 甘ったるいだけの炭酸飲料水だが、ヤニックは好きだから、頷いた。ロビーが、「俺もそれにしようかな」と笑う。笑い返せなかったのは、彼が尻もちをついて倒れたからだ。
「ティム!」
 ティムの足がロビーの右肩をもう一度、蹴った。
「ティム、やめろよ」
 ヤニックはすぐ立ち上がり、ティムを睨んだ。突然、こんなことをするのはティムらしくない。ヤニックはいらついているティムに溜息をつき、振り返ってまだ座り込んでいるロビーに手を差し出す。
「ありがとう」
「ヤニック」
 ティムに代わり謝罪する前に、ティムが手を引いた。
「行くぞ」
 ヤニックは仕方なく左手に握っていた缶ジュースをロビーに投げる。彼はうまく受け取った。
「ティム」
 食堂からロッカーまで引っ張られて、ヤニックは声に怒りを込めた。短く刈られているオレンジブラウンの髪を乱暴にかいたティムが、同じだけの怒りを込めてこちらを見た。
「あいつは嫌いだって言ってるだろっ」
「らしくないよ」
 ヤニックがティムに言うと、彼は肩をすくませる。
「俺らしいって何? だいたい、クラブにも入ってない、あんなダサい野郎、絶対に認めないからな」
「そういう基準、変だ。それに、認めなくてもいいけど、俺が誰と話をして、誰を無視するかは、俺の勝手だ」
 ティムとは小学生の頃からの親友だった。大きなケンカをしたことはないが、高校に上がってから、何かにつけて突っかかってくる。以前はこんなふうではなかったのに、とヤニックは彼から視線をそらさずに考えた。しばらくすると、彼から視線をそらして、わざとヤニックの肩へぶつかるようにして歩き出す。
 家で何かあったのだろうか。ティムの家は共働きで、下にまだ小学生の弟がいるが、兄弟仲も悪くない。ヤニックは大きな溜息をついて、自分のロッカーを開けた。午後からの授業に出るのが嫌になってくる。今日はクラブの日で、授業の後はまたティムと顔を合わせなければならない。
 すべて面倒になって投げ出したくなってきた。今年は秋の訪れが早いのか、涼しい風が廊下を吹き抜けていく。ヤニックは風に誘われるように外へ出た。そのまま自転車置場へ向かう。

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