あおにしずむ1 | ナノ





あおにしずむ1

 ヤニックがロビーをクールだと思うのは彼がいつもまっすぐ、さっそうと歩いているからかもしれない。彼は鼻歌でも歌いださんばかりの上機嫌で、どんなに道が混んでいようとも決してつまずいたり、後ろから押したりしない。まして、舌打ちをしたり、罵ったりしない。
 コートはこれしか持っていない、と言いながら深緑色のジャケットを着てくるロビーのファッションセンスは、はっきり言ってクールではない。だが、ヤニックは彼がそのジャケットに黄色のマフラーと手袋を合わせているのを見るたびに、可愛いと思うのだ。
 祖母が編んでくれたという毛糸の帽子からはみ出した、淡いブロンドのもしゃもしゃの髪に、アンバランスな深緑色と黄色の組み合わせだから、遠くから一目でロビーだと気づくことができる。
 ロビーがヤニック達のグループに関わりだしたのは、まだ日暮れまでが長い夏の終わり頃だ。ヤニックがいつものように仲間たちと帰ろうとしていたら、後ろから声をかけてきた。
「俺も一緒に帰ってもいい?」
 ヤニックが問題ないよ、と頷こうとするのを、ティムが大きな体で遮った。ティムのジーンズは腰まで下げられていて、歩き方はロビーとは正反対だった。ずるずるとやる気なく歩くのだ。それがクールで、そうやって歩くだけで、女子からの視線を集められる。
「俺ら、今からプール行くから」
「俺も……いい?」
「水着持ってんのか?」
 ロビーはしょんぼりして首を横に振る。同世代の中でも背の高い彼が肩を落とすと、すっかり落胆しているのが分かる。ヤニックは何だか可哀想な気がして、ティムの隣に並んでから言った。
「また今度、一緒に行こうよ。その時は誘うから」
 すると、ロビーは落胆が嘘のように瞳を輝かせて頷いた。

 プールに着いてから、ティムが彼を仲間に入れたくないと言った。こういう時、ウェインもパックも助け船を出してくれない。
「そういうの、ひどいと思う。理由もないのに、人に意地悪するなんてティムらしくない」
 乱暴に下着を脱いで水着をはきながら、ヤニックはティムを見上げた。ティムはもう着替え終わっていて、ロッカーに背中をあずけたまま腕を組んでヤニックを睨んでいた。
「あいつはゲイだから嫌なんだ」
 そんな噂を、ヤニックも聞いたことがある。だが、それはあくまで噂で、具体的にロビーがそうだと判断できる要素は一つもない。それに、ティムは困っている人を放っておけない、面倒見のいいタイプで、その彼が頑なとも言える態度で彼を突き放すのは、何となくすっきりとしない。
「行こう」
 ウェインとパックに急かされて、ヤニックはティムの後を追いかけた。
 あまり財政のよくない市は、市民プールを屋内プールにする計画を放置していた。暖かい間は、屋外でも楽しめるが、秋がくれば市民プールは営業をやめてしまう。サッカー練習のない夏の放課後は、いつもプールで遊んだ。
 ヤニック達の高校からプールに来るのは、サッカークラブの連中が大半だった。馬鹿らしいとは思っているものの、そういう伝統が残っている。高校の人気者達はサッカークラブの面子であり、クラブの生徒以外が来ると、追い返される。中に入っていいのは、彼女か可愛い女子だけだ。
 プールで泳いだ後、いつも通りにティム達とハンバーガーを食べてから帰宅した。ヤニックの家は市内の中心部にある。市内といってもあまり大きな街ではなく、人の数より牛の数が多い。
 学区内の公立高校はヤニック達が通う高校だけだ。裕福な家の子や大学へ進みたい子は、市外の私立へ通う。だから、プールへの入場を制限したところで、とても馬鹿げた話なのだ。一つしか高校がないのだから、張り合っても仕方ない。だが、だからこそ、ティム達はピラミッドの頂点にいることができる。

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