edge 番外編7(「ひかりのあめ」番外編10の続き)
焼き上がったピザを一口食べて、一弥は、「おいしい」と漏らした。向かいに座っている俊治が笑みを浮かべる。
俊治の協力を得て焼いたピザは、朝から奮闘して一人で焼いたピザの何百倍もおいしい。同じような手順で作ったつもりだったが、性格が出るのか大雑把にしてしまうところがあり、そのせいで失敗しているのだろう。
「慣れたら目分量もいいですけど、最初はきちんと計ったほうがいいです。時間も勘に頼らず、記載があればその時間で焼いて、それから様子を見て、温度を下げたりする、とかですね」
俊治はアイスティーを飲んで続ける。
「何かを決定的に間違えてるわけじゃないんで、今度からさっき言ったこと意識して作れば、もっとおいしくなりますよ」
俊治の優しい物言いに一弥は彼を見つめた。こんなに美人なのに、嫌味でもなく、意地悪でもない。博人が彼に夢中なのも分かる。
「ありがとう。ところでさ」
一弥はテーブルの上にあるピザを半分に切り、オーブンへ戻す。食べかけている分は、さらに半分に切り、口をつけていないほうを俊治へ差し出す。
「俺の料理、そんなにまずかった?」
「はい」
「あいつ、何で食ってたんだろう……」
今まで何か言われたこともなければ、残したこともない。まずければ、貴雄の性分からして一言ありそうだ。
「それが貴雄さんの思いやりなんじゃないですか?」
「思いやり?」
貴雄には不似合いな単語に、一弥はかすかに笑った。俊治がすかさず、「愛と言い換えることもできます」と続けて、さらに笑ってしまう。
「まずいのにまずいって言わないのが、愛?」
首を傾げると、俊治が頷く。
「お二人とも働いてますよね。でも、一弥さんは仕事の後にご飯を作る。疲れてるけど、わざわざ作ってくれる。その料理をまずいなんて言えますか?」
「そんなこと言われたら殴り倒す」
「殴られるのが嫌で言わないんじゃなくて、一弥さんの努力をムダにしたくないから言わないんです」
俊治の言葉には説得力があり、一弥はボックスから煙草を取り出しながら、最近作って食べさせたオムライスのことを思い出す。
ケチャップで味つけした白飯はタマゴでべっちゃりとしていたのに、タマネギなどの野菜類はあまり火が通っていなかった。
事実を教えてくれた俊治に感謝した一弥は、さっそく今夜、貴雄に尋ねることにした。
貴雄は敬司のところへ行っていた。幹部会であれば、一弥も参加するが、そうではないと言われたため、一緒には行かなかった。
夕飯前には帰ってきた貴雄が、白いケーキボックスを差し出す。一弥はソファから立ち上がり、腕を伸ばした。
「何? ケーキ?」
ガラステーブルの上に置き、中を開ける。一弥は甘党ではないため、ケーキの土産にはあまり興味がない。中にはケーキではなくミニサイズのパフェが入っていた。
「アイスは後でのせろ」
保冷剤とともにアイスカップもある。一弥は緩むくちびるを手で押さえて、ひとまず、アイスを冷凍庫へ、パフェを冷蔵庫へ入れた。
「パフェのお持ち帰りなんて、よくできたな」
「あぁ」
おそらく融資している企業のレストランへ無理を言ったのだろう。
「ありがとう」
素直に礼を言うと、貴雄はじっとこちらを見ていた視線を外した。 |