ひかりのあめ 番外編10 | ナノ





ひかりのあめ 番外編10

「すごい美人! 博人さんがうらやましい」
 博人の手が、そうだろう、とばかりに俊治を引き寄せる。
「俺を前にして、よくそんなことが言えるな」
 貴雄の言葉に一弥は笑いながら、右拳で軽く貴雄の胸を叩く。
「美人に弱いのは男の性だろ」
「俺はおまえだけだが?」
「何その、俺が美人でないとも取れる言い方」
「美しいと思ってたのか?」
「……心だけは」
 二人のやり取りに博人が笑い出す。俊治も声を立てて笑った。貴雄の恋人というから、もっと冷たい感じの人間かと思っていたが、どうやら先入観だったようだ。
「俊治君、よろしく」
 笑われて気まずいのか、一弥が早口であいさつをした。
「よろしくお願いします」
 友達と言えるまではまだ時間を要するが、俊治は何となく、彼とはいい友達になれそうだと思った。

 食事会の後から、俊治は一弥とよくメールをするようになった。車で一時間かかるため、頻繁に会いにはいけないが、互いに休みである土曜には、一緒に買い物へ出たり、料理を教えたりした。
 俊治はホールで働いており、料理が得意なわけではない。実際、手先が器用なのは博人のほうで、料理も彼のほうがうまかった。だが、ピザやパスタに関しては、職場の先輩である慎也から直々に教わったため、俊治のほうが上だった。
 その話を聞いた一弥が、ピザを作りたいと言い始め、電話越しで生地や具材の話、焼く時のオーブンの温度について教えた。一週間後、今度の土曜に迎えをやるから、家まで来て欲しいと言われ、断る理由もない俊治は一弥の頼みに頷いた。

「俊治、来てくれてありがとう」
 扉から一弥が出てくる。中へ通され、カウチソファへ座った。彼は冷たいアイスティーを出してくれる。
「ピザがうまくいかなくて」
 中に入った時から生地の焼ける香りが残っていたため、呼ばれたのはそのことだろうと思っていた。俊治は一口だけアイスティーを飲んでから立ち上がり、キッチンへ向かう。広々とした作業台の上には、一目見て失敗と分かるマルゲリータが置いてある。
 見た目が悪くても、味も悪いとは限らない。俊治は生地の端をつまみ、ナイフを使って一口サイズに切った後、口へ入れた。生地は半生状態で、甘過ぎてトマトの酸味とケンカしている。そこにバジルとチーズの風味がさらに不協和音を重ねているような、一言で表すなら、「まずい」に限る味だった。
 俊治の様子を見ていた一弥が、怪訝そうな表情になる。いつだったか、一弥から時々、夕飯を作り、貴雄に食べてもらっていると聞いていたが、もし、彼の作る料理がこのピザと同じレベルなら、何も言わずに食べている貴雄は称賛に値する。
「……一弥さん、はっきり言ってもいいですか?」
 俊治はアイスティーのグラスを取りにいき、キッチンに立って、ピザを食べている一弥へ声をかけた。
「まずいです」
「マジで?」
 頷くと、一弥はもう一口食べた。
「まぁ、そんなにおいしくはないか」
 その一言で、俊治は一弥自身が料理下手であることを自覚していないことに気づいた。作り置きのおかずを出してもらい、それらも食べてみたが、やはりまずかった。
「一弥さん、すごく愛されてますね」
「え?」
 一弥にエプロンを借り、俊治はまずピザを一緒に作ることにした。真剣に生地をこねている一弥も、彼の料理を食べ続ける貴雄も、何だか可愛い。俊治は一弥に教えながら、彼が料理上手になることで二人の仲がより深くなればいいな、と思い、微笑した。

番外編9
edge 番外編7へ続く

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