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edge 番外編5

 行為の後、いつもなら一緒に一服するが、今日はよほど疲れているのか、一弥は先に眠ってしまった。そういえば、する前から渋っていたことを思い出す。
 貴雄はうつ伏せて目を閉じている一弥の額へそっと触れた。風邪でも引いているのかと思ったが、その心配はなさそうだ。
 働き始めてから最初の一年は新しいことばかりで覚えるのに苦労していた。私生活ではヤクの誘惑に負けまいと、ジム通いを続け、今では自分の身は自分で守れるほど強くなった。
 二年目も終わる今では考えられないが、一弥はずっと組内で孤立していた。敬司が一弥のしたことを美談のように広め、高岡を始めとする各幹部が一弥を認めても、侮蔑が消えただけだった。
 一弥とどう接していいか分からない連中は多く、山中達が取り持とうとしていたが、失敗に終わっていた。貴雄は一弥から、口出しも手出しもするな、と言われたため、静観するだけだった。
 腰まで毛布をかけて、その背中の蛇と白牡丹へ触れる。小さな背中の刺青は迫力があるというより、むしろ額に入れられた芸術作品のように見えた。
 少し口を開けて寝息を立てている一弥は、子どもみたいだ。だが、その目の下に刻まれた疲労は彼が無邪気な子どもではないことを物語っている。貴雄は毛布を肩まで上げた。

 一弥より美人な男はたくさんいるが、初めて見た時、諦念している瞳の暗さに引きつけられた。死を覚悟できる人間は少ない。笑いながら、最後の一服をした彼は、貴雄の欲望を揺さぶった。彼のことを手放せなくなると予感していた。
 書類上で生い立ちを知り、自分達の類似点に安堵してしまった。たとえば、逃げられない理由を与えればいい。意思に反しているが仕方ないと思わせれば、彼は自己を責めるのをやめるだろう。
 そうして、一弥を無理やり犯して、自分側に引きずり込めば、彼もそのうち自分を見ると思っていた。
「……たかお」
 煙草を潰していると、一弥が呼んだ。起きたのかと思い、近づくが、彼はぐっすりと眠っている。貴雄は疲れが溜まると眠れなくなる体質だった。幸い、明日は休みのため、冷蔵庫からビールを取ってくる。
 今でも時おり、怖くなる。一弥の人生を変えてしまったことは、はたして許されることなのだろうか。一つだけ分かっているのは、どうしても一弥が欲しいという自分本位の欲情だった。
 ずいぶん前に親友である博人が、恋人を紹介してくれたことがある。それが何もかもの原因かもしれない。互いに孤児で、家族愛に飢えていたため、二人は時々、家庭を築く話をしていた。
 博人は自分より早く結婚し、子どもを授かるだろうと考えていたが、彼が最愛の人として紹介したのは、きれいな男だった。博人がアメリカから戻った時、また二、三年したら向こうへ行くかもしれないという話があった。その話を蹴ってまで、博人は恋人のそばに居続けている。
 収入も地位も変わるのに、どうしてアメリカへ行かないのか、と尋ねると、博人はまるで当たり前のようにこう言った。
「俊治君は英語が話せない。それに今の仕事、気に入ってるみたいだから」
 妥協するのか、と考えていると、博人はその心を読んだように続けた。
「ただ、彼が最優先なんだ」
 その時は分からなかった言葉の意味が、貴雄にはようやく分かるようになった。生活の中で、一弥が最優先になる。何かする時、必ず一弥のことを考える。
 貴雄は一弥の隣へ寝転び、薄暗い中、彼の髪をすいた。その指先で背中をなでる。後から敬司に聞いた話だが、一弥の決意は初めて市村組本家を訪れた時にはもう決まっていたらしい。その前もその後も、自分はどれくらい彼に負担をかけていたのか。それにも負けず、彼は壊れたりしなかった。

番外編4 番外編6

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