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edge 番外編4

 数日後、ビルのエレベーター内で偶然、一弥と一緒になった。
「涼しくなってきたな」
「そうっすね」
 ほんの数十秒だけなのに、沈黙に耐え切れず、翔太は一弥に尋ねた。
「……男が好きなんですか?」
 ぶしつけな質問にも関わらず、一弥は顔色一つ変えずにこたえてくれた。
「貴雄が好きなんだ。男がいいわけじゃない」
 あまりにも明確に言われ、翔太は驚くと同時に少し悲しくなった。貴雄への憧れを踏みにじられたような、一弥の言葉に裏切られたような、複雑な感情だった。
「でも、男の恋人なんて……」
「そうだな。だけど、あいつの隣は俺の居場所だ。その代償は払い続ける」
 乱れのない潔さで言いきった一弥は、体ごとこちらを向く。その張り詰めた糸のような凛とした瞳を見て、翔太は初めて一弥の美しさに気づいた。その美しさに気づいてしまうと、もう目がそらせない。
 最上階で扉が開き、一弥が出ていく。
「お疲れさまです」
 エレベーターから出てきた一弥へ、組員の男達が頭を下げた。一弥はあいさつを返しながら、さっそうと奥へ進んでいく。翔太は彼のうしろ姿を見送った。中に入ってきた男達が、「何だ、土建は下だぞ? 降り忘れたのか?」と不審そうに言う。
「俺、やばいかもしれない」
「え? 何かやらかしたのか? マサなら会議室にいるぞ」
 男達は二十九階を押下して、扉を開けてくれる。翔太は会議室でパソコンと向かい合っていたマサを見つけて、ノックをしてから中へ入る。
「あー、翔太か。お疲れさん」
 大きく伸びをしたマサの隣へ行き、翔太は、「やばいです」と告げた。彼は首を傾げる。
「やばい? 頼んでおいた資料、落としたのか?」
「違います」
「『loop』で何かあったのか?」
「違います」
「じゃあ、何がやばいんだ?」
 翔太は少し前に染めたばかりの髪を整え、身なりを確認した。それから、マサへ顔を近づける。
「俺、一弥さんと働きたい……」
 マサは翔太の消え入りそうな言葉を聞いて、目を丸くした後、大きな声で笑った。そのまま腹を抱えて、床にくず折れるようにして笑い続ける。あまりにも長いため、翔太はだんだんと腹が立ってきた。
「笑い過ぎです」
「ごめ、だって、おまえ、マジ、ごめん。いや、あれだけ一弥さんのこと聞かせてても、全然興味なさそうにしてたくせに」
「それは、あの人のことを知らなかったからです。あの人はとても崇高で、俺、あの人を守りたいんです」
 マサはスイッチが入ったように、また笑う。翔太はそれを横目に、一弥のことを思った。きっと一般人だったのに、借金のカタにされて、無理やり共永会にいるに違いない。貴雄にほだされて、今は受け入れているだけだろう。
「何か、色々想像してるところ悪いけど、翔太」
「……はい」
「一弥さんは守られるようなタイプじゃない。おまえみたいな奴が過去に何度も玉砕してる。遠くから見守るのがいちばんだ。貴雄さんにもばれないようにしとけよ」

 後日、翔太はマサの忠告を聞いていたが、我慢できず、一弥へ思いを伝えた。結果は悲惨なもので、きっぱりと断られたあげく、触れようとしたらそのまま背負われて、床に叩きつけたれてしまった。さらに貴雄の耳に入り、彼からも殴られた。
「でも、俺、一弥さんのこと諦められません」
 腫れた頬を押さえながら、翔太が言うと、マサが苦笑する。
「だから、他の連中みたいに遠くから見守るのがいちばんだって言っただろ?」
「他の連中……恋敵は多いってことですか?」
 マサが頷き、翔太は忍ぶ恋ではなくなったものの、思うことは自由だと考え、一弥に尽くすことを決めた。

番外編3 番外編5(貴雄視点)

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