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edge 番外編2

 ビールが運ばれた後、次々に料理が並んだ。貴雄が、「ご苦労さま」と声をかけると、食事が始まる。円卓ではなく、長方形のテーブルの二ヶ所に料理の盛られた大皿が置いてある。
 翔太は料理を食べながら、貴雄と一弥を見た。共永会のトップに男の恋人がいるという噂は聞いたことがある。だが、噂だと思っていた。マサ達から聞いていても、どこか現実味がない。今、目の前の二人はじゃれ合うわけでもなく、それぞれ好きなものを皿に取り、貴雄は黙々と、一弥は山中と話をしながら食事をしている。恋人同士には見えなかった。
 食事が進むと、一弥が立ち上がり、マサのところまで来た。翔太は慌てて、目の前のビールジョッキをつかみ、飲むのに忙しいふりをする。
「マサ、お疲れ」
「お疲れさまです」
 一弥が軽く声をかけると、マサは嬉しそうに笑った。マサの表情は柔らかく、彼に気を許しているのだと分かる。翔太はビールを飲みながら、二人の会話を聞いた。
「この間、借りたDVD、すごいよかった。俺、もう泣きまくってさ」
「ですよね? 泣けますよね? よかった、同志がいて。他の連中、くだらないって言うから、俺、誰とも分かち合えなくて寂しかったんですよ」
 二人はDVDの話でひたすら盛り上がる。不意にこちらを見ていた一弥が、テーブル上の紙ナフキンを一枚取って、差し出してくる。翔太が見上げると、彼は笑みをこぼした。
「頬にエビチリのソース、ついてる」
 翔太が頭を軽く下げて受け取り、右も左も拭き取っていると、 マサが翔太のことを一弥へ紹介した。彼は、「よろしく」とだけ言い、席へと戻っていく。
「マサさん、あの人なんですよね?」
「え、あぁ。一弥さんか? そうだよ」
 マサは残っていたエビチリを皿へと取り分ける。普通の人、というのが第一印象だった。

 次に彼を見た時、彼はいつものスーツ姿ではなくジーンズに長袖Tシャツというラフな格好だった。CDショップの中で、一枚ずつ手に取っては吟味している。
 翔太もCDを買いにきていた。周囲を見るが、組の人間は他にいそうにない。一人で来ているのか、と考えていると、一弥がこちらを見た。
 翔太はCDを見ているふりをして視線を落とす。一弥がこちらへ来るのが、視界の端に映った。
「翔太? だっけ?」
 一弥は翔太の肩辺りで首を傾げてのぞき込んでくる。一回会っただけで名前と顔を覚えられた。一弥ではなく貴雄だったら喜んだかもしれない。翔太は彼も幹部の一人であることを失念していた。
「……はい。お一人ですか?」
 一弥が頷いた。
「今日は休みだから、ぶらついてる」
 護衛の一人も連れていない。この周辺は市村組のシマだが、それにしても無防備だと翔太は思った。一弥は翔太が手にしているCDを手に取る。服装のせいもあるが、彼は少し幼く見えた。
 一瞬、目の前の彼が貴雄に組み敷かれる姿を想像した。おかしな気分になってくる。
「これ、買うのか?」
「あ、え、はい。えー、買います」
 一弥が、「じゃ、レジ行こう」と歩き出す。彼も二枚、CDを持っていた。本当に極道の人間には見えない。買い終わると、彼は駅のほうへ歩いていく。電車で来たのだろうか。
「車じゃないんですか?」
「うん。ペーパーだから、運転できそうにない」
 送迎つきだと思っていたが、そうではないようだ。愛人だなんてやはり噂だけで、実際のところは一般人で、会社に雇われているだけかもしれない。この間の食事も、きっと労うために貴雄が声をかけただけだ。土建のほうには組員ではない多くの一般人も雇われている。
 翔太は一弥が貸金業のほうで働いているとは知らなかった。勝手に解釈し、同じ方向のため、並んで歩いていると、車道の脇に黒の国産車が停車した。一弥は足を止め、近寄っていく。知り合いの車のようだ。

番外編1 番外編3

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