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edge38

 理知的な瞳の男は数日後にやって来た。初めて話しかけた時と同じように、新しいシーツをベッドへ被せると、点滴針を一弥の腕に刺しながら口を動かす。
「芳川が出てくるまでに、こっちもつかんでおきたいことがある」
 一弥は男を見返す。
「小野に打って欲しいとねだってみろ。おまえ自身が証拠になれば、こっちは動きやすい」
 訝しみながら、見ていると、男が続けた。
「おまえのボスのためだ。やるだろう?」
 ボスというのは貴雄のことだろう。小野に打って欲しいと言えば、貴雄のためになる。一弥が考え込んでいると、勘違いした男がかすかに苦笑した。
「心配するな。おまえは見逃してやる。一回だけでもそうとう残るだろうが、抜けるまで知り合いの施設を紹介してやるから、俺達に協力しろ」
 首を縦に振る以外は受け入れないと、男の瞳が言っている。一弥は頷いた後、ようやく男の正体に思い至った。彼は麻取だ。
 男が出ていった後、一弥は扉のほうをずっと見つめた。視界がにじんで、涙が流れていく。自分の感覚がおかしいのだろうか。一弥は敬司からもらっていた番号へ電話をしようと思っていた。この世界で生きる決意をしようとしていた。
 それまでは、まだ自分は一般人だと思っていた。その認識が誤っていた。麻取の男は一弥を完全に共永会の人間だと見ている。潜入捜査をするくらいだから、一弥が貴雄の何かは知っているだろう。傍から見れば、一弥はすでにこの世界に属している。
 だが、ここでは、一弥は軽蔑されているだけだった。一部の人間を除いて、一弥は認められていない。どちらの世界にも属していない。その中途半端な位置に、一弥はむしょうに悲しくなった。
 助けてくれるはずの人間から、彼らの捜査のために体を犠牲にしろと言われたこともこたえている。だが、自分が犠牲になれば、貴雄のためにもなる。ヤクの件については、小野が仕組んでいると見て間違いない。小野の最終的な目的が何かは分からないが、先に共永会を潰そうとしていた。

 小野が来る時、一弥はたいてい眠っている。行為の途中で目覚めることがほとんどだが、その夜は眠らずにいた。扉が開き、彼が一弥の横を素通りして、シャワールームへ向かう。
 一弥が眠っていなかったことに、小野は少し驚いたようだが、すぐに笑って準備を始めた。媚薬を打たれる前に、一弥は声を出す。口枷のせいで言葉はすべて濁音になり、何を言っているか分からないだろう。だが、一弥は必死に拘束された手を口元へやって訴えた。
 ビールを一口飲んだ小野は、笑いながら、「外して欲しい?」と聞いてくる。一弥は大きく頷き、うるんだ瞳で彼を見上げた。実際、怖かった。本当に打たれたらどうしようと思う反面、打たれずに失敗に終わったら、成功するまで演技を続けることになる。
 小野は機嫌がいいのか、初めて口枷を外してくれた。一弥はすぐには言葉を出さず、まずはベッドから床へ移動した。彼の前にひざまずき、歯でバスタオルを噛んで、彼の前をはだける。
 一弥が何をしようとしているのか分かった小野は、ますます機嫌がよくなった。口枷のせいで長い間、大きく開けなかった口は、小野のペニスをくわえこむために開くだけで顎が痛む。
 一弥は小野のペニスへ奉仕した。舌でなめ、喉の奥で飲み込むようにして、くちびるで挟み込む。彼は一弥の髪をつかみ、いきそうになると、髪を引っ張った。永遠とも思える時間、一弥は顎の痛みに耐えながら、彼のペニスをくわえ続けた。
 口の中へ広がる生臭い精液もすべて飲み込む。一弥は瞳に涙を浮かべていた。嫌悪していると思わせないために頬を緩ませる。小野は少しだけ休憩してから、媚薬の入った注射器を手にした。
 針先が肌へ刺さる寸前で、一弥は小野を見上げる。
「ぃ、いや。もっと、きもち、の、がいい」
 舌がうまく回らない。
「もっと、きもち、いいの、ほしい」
 ヤクを打って欲しいと懇願する。どこまで落ちていけばいいのだろう。一弥は演技だと悟られないよう、媚びるように小野を見た。

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