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edge36

 両親と一緒に行きたい、とその時、思った。一人ぼっちは嫌だ。一弥の心が虚ろになっていく。欠落していく感情を拾うことができない。生きている価値がない。手の平が赤く染まる。自分のせいでマサが傷ついた。
 一弥は重いまぶたを開いた。睡眠薬を打った男が、ベッドの縁に座っていた。彼は腰にバスタオルだけを巻いた状態で、シャワールームから出てきたようだ。一弥の目が開いていることに気づいた彼は、一弥へ手を伸ばしてくる。
「いいね、泣き顔」
 寝ている間に涙を流していたらしく、男の手は頬へ触れた。一弥が睨むと、男はナイトテーブルの上からナイフを取る。衣服を切り裂かれながら、不明瞭な脳内に男の声が響く。貴雄はおまえを捨てた、と言われた。彼の立場を守るためには、おまえは荷物になるだけだ、と言われた。
 舌を噛まないように口へ入れられた布のせいで、何も言い返すことができない。だが、話せる状態だったとしても、一弥には何か言葉を発する余裕はなかった。親戚の家で厄介者扱いされ、自ら捨てようとした命を拾ったと言い張った貴雄からも捨てられ、焦点を結ぶことができなくなった一弥には着地点がなくなってしまった。
 一弥を裸にした男は、注射器を手に取る。半睡状態の一弥にはそれが何かも分からない。また睡眠薬を打たれるのだろうか。腕から体内へ入った薬液を眺めながら、一弥は自嘲した。
 しだいに体が火照ってくる。男は一弥に媚薬を注射していたが、一弥自身には分かるはずがなかった。まだ抜けていない睡眠薬の効果の中で、夢うつつに性的欲求が込み上げてくる。
 一弥のペニスがたち上がっているのを見て、男は潤滑ジェルとともに指でアナルを解した。だが、前戯にかけた時間は五分もなく、すぐに男の猛々しいペニスが一弥の中へ入ってくる。
「ッゥウ、んーっ、ン」
 いくら媚薬で高ぶっているとはいえ、十分に解されずに受け入れた一弥は、痛みに涙を流す。男は気に留めず、そのまま激しく動いた。痛みしか感じない。一弥のペニスは勃起していたが、男の動きでは達することができなかった。
 だが、男は一弥の中から出ていくと、自身が復活するまでの間、アナルへバイブレーターを突っ込んだ。一弥の体が跳ねるのを見ながら、男はベッドの縁に座り、ビールを飲み始める。
「清流会の件が終わるまで、おまえはここにいることになる。その間に壊してやるから、せいぜい俺のことを楽しませてくれよ」
 男は抜けかけているバイブレーターを力いっぱい奥へ押し込んだ。一弥はにじんだ視界から目を閉じ、真っ暗な世界へ移動する。以前のように心を奮い立たせることができない。男の手が一弥のペニスを扱き始める。
 快楽におぼれているはずなのに、一弥は痛みばかりを拾い上げ、空虚な心が悲鳴を上げているのを感じた。

 男が仁和会の小野であることは名乗られなくても分かっていた。だが、一弥は自分がどうして小野に犯されているのか、貴雄と宮崎と小野の間にどのような取り決めがされたのか、知るよしもなかった。
 当然、小野は一弥に真実を伝えず、虚偽の話ばかりを聞かせていた。一弥は常に口枷をされており、言いたいことも聞きたいことも飲み込むばかりだ。小野は暴力的ではなかったが、性的なことになると執拗に責めた。
 一弥の手足は手錠によって拘束され、ベッドへつながれていた。一日一回、ベッドシーツを替えに入ってくる男のために、立たされ、その間に点滴を打たれる。ベッドからトイレまでは鎖が伸びるが、扉までは届かなかった。
 早く逃げなくては、という考えは最初からない。一弥は自分の手の平を見て、そこが血だらけになっている幻覚を見ている。自分のせいでマサが死んだ。貴雄にとっては邪魔にしかならない。始終、その考えに陥っていた。
 小野が打っている睡眠薬の効果は昼になっても残っており、一弥は朝から夜までぼんやりとしていた。加えて、部屋内を出入りする男達の自分を軽蔑する冷たい視線にさらされ、一弥の瞳からは徐々に輝きが消えていった。

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