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 人の気配に目を開くと、スーツを着た男が立っていた。
「おはようございます」
 丁寧にあいさつをされたが、一弥にはどんな気力も残っていない。男が背後にいた部下達に命令し、一弥の体の中でまだ弱々しく動いているバイブレーターや、ローターを取り外す。
 一弥は濡れた地面に横になったまま、視線だけを男へ向ける。男は一弥の姿を嘲笑っていた。遠くから足音が聞こえてくる。男達が体を曲げてあいさつをした。
「こいつか?」
「はい」
 低い声の男は貴雄と同じ雰囲気を持っている。男がどこかの組のトップだということは知れた。一弥は殴られて腫れてしまった目で男の顔を見る。
「あんまりぱっとしない奴だな。あいつがのぼせてるって噂だが……顔じゃなくて、ケツのほうか?」
 男が笑うと、部下達も笑った。
「俺らのザーメン、うまそうに飲んでましたからね、男好きなんじゃないですか」
 一弥を犯した男がいるらしい。
「まぁ、どんなに具合がよくても、俺は突っ込みたくはないがな」
 拳を握り締めたいが、一弥にできたのは瞬きをすることだけだった。奥に設置されていたビデオカメラが再生される。男達に犯された後、おもちゃで責められる一弥の狂った姿がしっかりと録画されていた。男はそれを確認した後、ビデオカメラを別の男へ渡し、一弥のそばへしゃがみ込んだ。
「山中が来てたんだ。あいつも可哀想にな。男に狂った芳川(ヨシカワ)のために働かされて。志村(シムラ)」
「はい」
「こいつに今後のことを説明してやれ」
 男はそう言い残して、踵を返す。一弥は山中が来たのなら、助かるのではないか、という望みを抱いていた。志村と呼ばれた男は部屋へ侵入し、一弥をここへ連れてきた男だった。彼は笑みを携えているが、一弥の望みを打ち砕く言葉を発する。
「山中は探りを入れにきただけで、あなたがこちらの手にあると気づいていません。私達はあなたを使ってもめ事を起こす気はないんですよ。同じ市村組系として、仲よくやりたいですからね。ただ、共永会にはこのまま沈んでいてもらいます。あなたの行方が分からない限り、芳川も仕事どころではなさそうですから」
 男達がシルバー色のゴルフバックのような大きな袋を広げた。一弥は志村から視線をそらさず、自分の今後についての宣告を待つ。
 清流会か仁和会の人間か分からないが、こいつらに命を奪われるのは嫌だった。嫌だが、この状況ではそれも受け入れるしかない。最後に煙草が吸いたいと強く思った。
「そんな覚悟を決めた瞳で見ないでください。そこまで残酷ではありません。あなたには働いてもらいます」
 一弥の体が男達の手によって袋の中へ入れられる。生きた心地はしない。だが、殺しはしないと言われた。働く、という言葉の意味を考える。船に乗せられるとか、使えそうな臓器を提供するとか、そういうことしか思い浮かばない。
 男達に運ばれた後、おそらく車の中に入れられた。一弥は暗闇の中で、じっとりと汗をかいていたが、体はだるく寒気を感じていた。マサの手料理や涼しげに笑う山中のことを思い出した。肩まで優しく毛布をかけてくれた貴雄の手を思い出した。
 戻りたいと思うと、喉が鳴る。今の状況と比べれば、貴雄のところは天国だ。だから、戻りたいと思うだけだ。そう言い聞かせても、一弥は喉を鳴らして、涙をこぼした。助けろよ、と貴雄に呼びかける。おまえが自分で主張したおまえのものがここまで蔑ろにされているのに、気づいていないなんて嘘だろう、と彼を罵る。
 喉の奥から漏れる嗚咽は、車のエンジン音にかき消されていく。一弥はそのまま泣き疲れて意識を落とした。

 次に目を開けた時、一弥はオフホワイトのリノリウムの床に転がっていた。寒気はまだ残っていたが、体は清潔にされたらしく、かすかにボディソープの香りがした。立ち上がろうとすると、傷が痛む。
 手と足を拘束する鎖は一つにつながっており、その先を追うと、扉付近の頑丈な鉄製のフックに続いていた。部屋は六畳ほどの広さしかなく、床と壁と外へ続くと思われる扉以外、何もない。
 一弥は新しくされた口枷を外そうと腕を上げようとしたが、鎖が重く、指先が口元まで届かなかった。仕方なく扉まで歩き、ドアノブへ手を伸ばした。

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