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 一弥は踵を返して、ベランダの窓を開け、外へ飛び出した。あっさりと飛び降りる選択をした一弥にうしろで男が叫ぶ。まさかベランダへ逃げるとは思っていなかったのだろう。飛び降りたら助かる高さではないからだ。
 手すりに手をかけた時、一弥の中に解放感はなかった。最後に貴雄へ文句を言いたいと思ったが、地面を蹴って体を持ち上げる瞬間、思い出したのは、「おまえの命は俺のものだ。おまえにも奪わせない」という彼の言葉だった。
 無数の手が体をつかむ。ベランダの地面へ押さえつけられ、一弥はそこで男達から暴行を受けた。体をつかまれた時に破れた衣服へ、血がにじんでいく。殴打と足で蹴られ続けた後、一弥はせき込みながら血を吐いた。鼻血と口内に溜まった血が喉に詰まり、呼吸が苦しくなる。
 男達の手で立たされると、目の前の男が笑った。だが、彼の笑みは表情だけで、やはり瞳は笑っていない。
「一般人と聞いていましたが、なかなか根性がありますね」
 男の視線が動き、うしろの男達へ合図を送る。口と鼻を布でふさがれ、鳩尾に重たい一撃を受けた。意識が薄れていく。一弥が最後に見たのは、青い空だった。

 マサから話を聞いていなければ、一弥は自分の置かれている状況を推し量ることができなかったに違いない。一弥は映画でしか見たことがないような、格子のついた牢屋の中にいた。
 手はうしろで拘束されており、口にも何か噛まされている。裸電球だけがまぶしいくらいに照っていた。男達からは暴行を受けていたが、全身に痛みがあるわけではなかった。痛みがあるのは縛られている腕と左頬と腹だけだ。
 一弥はひとまず壁に背をあずけた。蒸し暑さから汗が流れるが、今の状況ではぜいたくを言っている場合ではない。
 男は名乗らなかったが、共永会に敵対する組織か、あるいは清流会や仁和会の人間だろう。面倒なことに巻き込まれた、と思う。しかしながら、面倒なことは今に始まったわけではない。もとをたどれば、彼女に呼び出されてファミレスへ行ったあの夜から、一弥の人生は大きく方向を変えてしまったのだ。
 それを今さら他人のせいにはしないが、貴雄だけは責めたいと思う。周囲に大事な人だと触れ回るくらいなら、ちゃんと守れ、と一弥は心の中で悪態をついた。
 ひとしきり貴雄への不満を募らせた後、一弥は壁を使って、ゆっくりと立ち上がった。足もずいぶん蹴られていて、うまく歩けるか不安だったが、立ち上がるといつも通りに動けた。
 格子のそばへ近寄り、その間から外をうかがう。監視はなく、他に誰かいそうな気配もない。蒸し暑さのせいか、一弥は喉が渇いていた。格子の扉には南京錠があり、一弥は背中を向けて、拘束された手で南京錠へ触れる。
 鍵がなければ開きそうにない。諦めてその場へ尻もちをつくと、どこからか話し声と足音が聞こえてきた。
「あぁ、起きていましたか」
 男の顔を見て、一弥は立ち上がる。彼は最後に見た時とは異なるスーツを着ていた。
「共永会はまだあなたが消えたことを公にはしていません。あの男はプライドが高いですからね」
 男はうしろにいた男達へ鍵を渡す。
「もうすぐボスが来るので、それまで、あなたにはお楽しみ頂こうと思います」
 一弥は四人の男達がそれぞれ手にしている物へ視線をやり、後ずさる。逃げる場所はどこにもなかった。覚悟を決めて、男達が鍵を外して入ってきてから、逃げ出す方法を考える。四対一では勝ち目がないが、逆に油断しているかもしれない。
 一弥の瞳に気づいた男は、鍵を開けようとした男へスタンガンを渡した。一弥は悔しさでいっぱいになったが、今は男達四人から逃れつつ、あのスタンガンを当てられないように外へ出る方法を考えなくてはならない。
 男達が扉を開けて、中へ入ってくる。一弥は一度、奥まで逃げて、壁づたいに走った。鍵のかかっていない扉の外には、まだ男が立っている。一弥はそれでも足を止めずに、格子の扉から外へ出ようと試みた。男の足が腹に入る。うしろへよろめくと、右の上腕部へスタンガンが当てられた。
 熱い、と感じた一瞬後には全身に痛みが走る。一弥はその場に転び、肩を強かに打った。

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