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edge19

 突っ立っているマサへ煙草を勧めた。彼は遠慮しているのか受け取らない。
「とりあえず、座ったら? 立ってられると、落ち着かない」
 自分の家でもないのに、人へ座れと言うのは変な感じだったが、一弥が言うと、マサはようやく座ってくれた。
「何で俺につくことになったか聞いてもいい?」
 どうせ世話係と称した監視役だろうと思っていた。ケガはほとんど癒えた。また逃げられたら困るから、おそらく監視役を一人増やしたのだ。マサは一弥の問いかけに少し考えてからこたえた。
「若頭が、あ、山中さんが、話相手にちょうどいいからって言ってました。俺、ちゃんとあなたのこと、命を懸けて守ります」
 マサからの回答は一弥の聞きたいことから大きくずれていた。一弥は煙草を潰しながら、「山中さんはやっぱり若頭なんだ」と口にする。確かに有能だろう。
「はい。優しそうな顔してるから、俺、最初に会った時、すごく軽く声をかけてしまって、兄貴達から怒られた覚えがあります」
 マサは思い出したのか、少し顔を引きつらせた。
「くみちょ……貴雄さんもすごく慕われてて、思わず声をかけそうになるけど、本当は俺なんかが話しかけていい方じゃないんです。でも、一弥さんつきになったので、貴雄さんから声をかけてもらえて、俺もうすごく嬉しかったです」
 マサは思い出すように目を閉じて、溜息を吐いた。一弥は彼らが貴雄に陶酔する気持ちが分からず、アイスコーヒーを飲みながら、テレビへ視線を移す。
「名前で呼ぶのって珍しいな」
 テレビを見ながら、一弥が言うと、マサが説明してくれる。
「共永会は市村組の傘下で企業舎弟として動いてるんです。貴雄さんの仕事は極道というより、むしろ普通の会社がやっているようなことなんですよ。そのせいか、貴雄さんも山中さんも、肩書きで呼ばれるの嫌みたいなんです」
 マサは照れ臭そうに、「俺なんて新入りで、何かお二人の名前を呼ぶのも慣れなくて大変です」と笑った。一弥は共永会がいわゆるフロント企業だと知り、テレビから視線をマサへと戻す。
「……さっき、俺のことを守るとか言ってたけど、監視役で来たんじゃないのか?」
 一弥の言葉にマサは首を横に振る。
「監視? そんなわけでないです。くみ、た、貴雄さんはあなたを守るには二人で足りないって仰ってましたよ」
「はぁ?」
 二人、というのはもちろん外のホールに立っている二人だろう。
「だけど、今、ちょっと人不足なんです。内緒ですよ、俺が話したこと」
「俺につくの嫌じゃない?」
「いえ。光栄です。貴雄さんの大事な人ですから」
「大事な人? 何か間違ってない?」
「え、いや、そう言ってました……よ?」
 一弥が貴雄に対する怒りを抑えていると、マサが勘違いをして早口で話す。
「あの、中には一弥さんが男ってことで、何つーか、貴雄さんに憧れてる人も多くて、あ、もちろん、貴雄さんに抱かれたいとかそういうんじゃなくてですね、男として敬うって感じの、それで、嫉妬みたいなので、あー、とにかく、男の嫉妬って女よりうざいじゃないですか、うるさい人もいるんですけど、気にしないほうが」
「全然、気にしてない」
「あ、そうなんですか?」
 一弥が頷くと、マサが前のめりなった体をソファへあずけた。
「さすが選ばれた人だけあるなぁ。細かいことはさらっと流せるんですね」
 色々と言い返したいことはあるが、一弥は飲み込んだ。マサに言っても仕方ない。
「さっき人不足って言ってたけど」
 気になったことを尋ねるとマサは内緒ですよ、と前置きして、共永会の様々な話を聞かせてくれた。市村組の下には三人の舎弟がおり、貴雄の他に宮崎昭治(ミヤザキアキハル)がトップの清流会と小野義也(オノヨシヤ)がトップの仁和会がそれぞれ市村組を支えている。
 同じ舎弟という立場でありながら、三者は決して仲がいいわけではない。特にまだ三十五歳と若いながらに、市村の跡取りと噂されている実子の市村敬司(ケイジ)と親交が深い貴雄は、宮崎と小野から邪険な扱いを受けることが多い。
「でも、今回のでまた親父さんの株が上がったんですよ。福岡にある市村組系音羽会で身代わりが嫌で逃げた馬鹿がいたらしくて。俺達が清流会や仁和会を押さえていちばんに見つけたんです」

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