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 一弥が部屋から出ないまま、一週間が過ぎた頃、紙袋を持った男達とともに山中が入ってきた。初夏の日射しは高層階のここから見ても強い。山中はダークブラウンのスーツを涼しげに着こなしていたが、男達はむさ苦しいほど汗をかいていた。
「足りてるって言ってたが、夏物を用意したから、後でクローゼットにでも入れてくれ」
 山中が自分のことをどう思っているのか知らないが、一弥は彼のことを気に入っていた。特に、さばさばしたところや仕事を迅速に処理していくところに好感が持てた。
「体はもう大丈夫か?」
 一弥が頷くと、山中も頷いた。あの日、彼が連れて出た男達も、暴行した男達も見かけなくなった。単にここへ来ていないだけかもしれないが、エレベータホールの監視役も別の男達になった。彼らがどうなったのか、知らない。一弥はあえて尋ねることもしない。
「マサ」
 紙袋を置いた男達は、用が済めばすぐに出ていく。山中のうしろに一人だけ残っていたスーツではない男が、名前を呼ばれて返事をした。
「一弥くん、こいつ、好きに使って」
 マサと呼ばれた男は一弥よりも若く見える。破れたジーンズにTシャツという格好だが、気さくな感じで軽く頭を下げられた。一弥も会釈をする。
「邪魔だったら外に出してていいから」
 山中はそう言って、部屋を出ていった。自分に誰かをつけるという話は貴雄からも聞いていない。一弥はソファから立ち上がり、とりあえず何か飲み物でもいれようとキッチンへ立った。
「あ、俺がします」
 マサは気さくな感じだが、緊張した様子で一弥の隣へ立ち、収納されたものを確認しながら、手際よく準備をする。
「何が飲みたいですか?」
「え」
 喉が渇いていたわけではないため、一弥は返事に困る。
「甘いミルクティーにしますか?」
「あー」
 一弥は甘党ではない。どちらかといえば、コーヒーがいい。マサは一弥の反応に、「コーヒーにします」とすぐに言った。一弥は礼を言い、玄関の扉を開けた。ホールには監視役の二人が立っている。
 マサは自分の世話係として来たということだ。別に必要ないのに、と一弥はキッチンに立つ彼のうしろ姿を見た。煙草に火をつけて、ソファの背もたれで体を伸ばす。テレビをつけて、煙を吐き出していると、彼がわざわざ氷を入れたアイスコーヒーをテーブルへ置いた。
「ありがとう……あ、君も」
 一弥はマサを何と呼べばいいのか分からず、「君」と呼びかけたが、構えた感じがしておかしい。
「マサも飲んだら?」
 マサは大きく頭を振った。
「いえ、自分は別にいいです」
 下っ端なんだろうか。やけに萎縮していると思いながら、一弥はアイスコーヒーに口をつけた。飲みながら、気になる視線に目を合わせると、マサがこちらを見つめていた。
「すみません」
 ぶしつけに見ていたことへの詫びだと分かる。マサもやはり貴雄が自分を囲っていることに納得がいかないのだろうか。だが、他の男達と比べると、低姿勢で純粋な気がする。
 一弥は大人しくこの部屋から出ないようにしているが、それは貴雄を受け入れたということではない。ケガが完治するまでは、とりあえず貴雄の言う通りにして、その後は逃げ出す機会をうかがおうと考えていた。
 もっとも、共永会から逃げられると本気で思っているわけではなかった。貴雄は一弥が自分を殺めることを懸念している様子だった。だが、一弥は最初の頃ほど投げやりにはなっていない。
 貴雄が飽きるのが早いか、自分の我慢の限界が早いか、それだけの話だ。そして、一弥はすぐに飽きられるだろうと安直に考えていた。

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