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edge16

 夜の繁華街を歩いていた一弥は、コンビニへ入り、パンと飲み物を買った。それをコンビニの前で食べてから、また歩き出す。所持金のことを考えると、どこかへ泊まることはできない。
 路地裏に入り、そこで煙草を吸った。じめじめとした空気で肺が腐りそうな気分になる。今日、部屋にやって来た女性は間違いなく貴雄の愛人だろう。他にも何人かいるに違いない。
 愛人がいるくせに、自分を抱くなんて、やはり頭がおかしいとしか思えない。もっとも、彼女が言うように貴雄が共永会のトップなら、少しくらい奇抜でもそんなものかと思えてくるから不思議だ。
 市村組も共永会も一般人である一弥でさえ、知っている組織だ。逃げられないかもしれない、という恐れは、私服の男とスーツを着た男達の姿を見た時、確信へ変わった。左手から路地裏へ入ってくる。一弥は右を向き、そちらからもやって来る男達に溜息をついた。目の前にあるどこかの店の裏口ドアを開けようとしたが、鍵がかかっている。
 男達の手で、一弥はあっさりと拘束された。一弥を監視していた男達は、この中にはいないが、彼らが見逃したのに、またこうして捕らえられるのはいい気分ではない。
「貴雄さんにどうやって取り入ったか知らないが、おまえみたいな野郎があの人のそばにいるなんて虫酸が走るんだよ。逃げるくらいなら死ね」
 一弥はその場で男達から暴行を受けた。両腕をつかまれた状態で顔や腹を殴られ、男達の蹴りが太股や足に当たる。やられっ放しが悔しくて、言い返そうと思うが、だいぶ口内を切っているようで、口を開くと、血が滴った。抵抗しようにも、体を押さえられた状態ではどうしようもない。
 そのうち、腕の拘束はなくなったが、立っていられるはずもなく、ひざをついて、その場に倒れた。もうろうとする意識の中で、これで終わりかと考えていると、今度は背中を蹴られる。腹を殴られるように、内臓を圧迫されて苦しくなった。
 男達がいら立つ理由を、少しくらいは理解している。彼らが崇拝している貴雄が、自分なんかを部屋に置くのが気に入らないのだ。愛人の女性も、嫉妬をむき出しにいていた。
 濡れたアスファルトに頬を擦られ、そのまま髪をつかまれた。
「こいつ、笑ってる」
 一弥は笑ったつもりはなかったが、笑えてきたのは確かだ。自分は関わりたくないのに、周囲が勝手に動いて、勘違いして、こんな目にあっている。貴雄が自分を抱くのは一時のことだろう。そのうち飽きて、彼らにとっての日常が戻るはずだ。それまで待てばいいのに、と一弥は笑うしかなかった。
「っあ、うぅう」
 喉に詰まった唾液と血液を吐き出して、一弥は髪をつかんでいる男の手を払おうとした。一弥に暴行を加えた連中が、周囲の目から隠すように立っていた連中に視線を送る。
「どうせ飽きられて捨てられるのがオチだ。捨てられたら、平穏に生きられると思うな。俺達が息の根を止めてやる」
 男達が路地裏を去ると、右側から入ってきた男達が一弥を立たせた。
「貴雄さんのところへ行く。分かっているとは思うが、あいつらにやられたって泣きついたりするなよ」
 男達の手を借りなければ歩けない状態で、一弥は怒りの涙を流しながら、用意されていた車へ乗り込んだ。一弥自身が望んだことではないのに、貴雄の行動のせいで彼の部下達が不満を自分へ向けてくるのは、迷惑この上ない。
 車がマンションの地下駐車場へ入り、一弥は男達と一緒にエレベーターで最上階まで上がった。扇形のホールから格子の扉を引き、玄関ドアが開く。室内は一定の温度で調整されているはずだが、冷たい空気を肌に感じた。
 男達に急かされ、一弥は靴を脱いでリビングダイニングへ向かう。カウチソファに座る貴雄の不機嫌そうな表情に、一弥だけではなく、男達も固まっていた。その貴雄は一弥の姿を確認するなり、目をすがめる。不愉快さをあらわにした彼は、立ち上がり、一弥の前に立った。
 大きな手が顔やくちびるへ触れ、男達の前だと言うのに、泥や血で汚れた服を引き裂いた。山中だけが顔色も変えずに、そばにいた男に消毒液と薬を買ってくるよう伝えている。
「誰だ?」
 青く変色した腹を押されて、一弥がうめく。貴雄は何かを確かめるように腹を押し続けた。
「よかった。内臓は破裂してなさそうだ」
 安堵した表情を見せたのは、一弥ではなく貴雄のほうだった。一弥はくちびるを結び、彼を見上げる。

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