just the way you are 番外編2/i | ナノ


just the way you are 番外編2/i

 ランチタイムの定食は三種類しかないため、出てきた伝票を見て、次々に揚げ物を投入した。今日は揚げ物担当だが、体調不良で休んでいるアルバイトの穴を埋めるべく、夏輝は手早く仕込んでおいた千切りキャベツを盛りつけていく。カウンターの前では、ホールスタッフがみそ汁とごはんを準備していた。
「これ、十二番さんで」
 伝票と一致するか確認してから、夏輝がランチタイム用の大皿を押し出すと、返事とともに客のもとへと運ばれていく。
「里村、冷蔵庫からカラシ取って」
 夏輝は、「はい」とこたえて、小皿へカラシをひねり出した。その後はまた注文伝票を見て、揚げ物を投入していく作業に戻る。昼の繁忙が過ぎたら、一人ずつ休憩を取り、まかないを食べる。夏輝のシフトは平日の八時から十七時と決まっていた。そのため、最初に休憩を取るのはたいてい夏輝だ。
 自分で作ったカツ丼とみそ汁を持って、夏輝は裏口から外へ出た。厨房でも座って食べることはできるが、晴れの日はいつも外で食べることにしている。ゴミ箱の近くは避けて、隣の店舗との間にある段差に腰を下ろした。
 忙しい時は目の前のことに集中するため、夏輝は休憩に入ってからようやく今朝の出来事を思い出すことができた。直太が泣いていた。嫌な夢でも見たのだろうか。彼は泣いていたことを否定したが、今朝は何度も触れてきた。
 スマートフォンを確認すると、直太から通知が来ている。夜のごはんと被らないように、学食で食べた昼ごはんを知らせてほしいと頼んだのは夏輝だ。大学入学後から、彼は欠かさずに教えてくれる。画面を見て思わず笑った。
「カレーとドレッシングが少なくて味がないサラダ、か」
 ごはんを少量にしているカツ丼を食べながら、今夜の食事を考える。陽射しは少し強いが、梅雨に入る前のこの時期は、外のほうが気持ちいい。ほかの店舗のゴミ箱や什器が置かれている中でも、空気が澱んでいないと感じるのは、五月と冬の間だけだ。
「つぶらちゃん」
 声をかけられて、顔を上げた。常連客であり、友人でもある金沢が軽く手を挙げる。可愛らしいあだ名をつけられているが、夏輝の特徴に、「つぶら」な部分はない。直太の褒め言葉もたいていの場合は、「きれい」という表現が多い。理由を尋ねると、「小さくて可愛いから」と即答された。悪い気はしないものの、最初は彼のことを警戒していた。
「こんにちは。今からですか?」
「うん、俺もカツ丼にしよう」
 百八十センチ近くある金沢は、緻密な計算をしてから造った人形のように美しい。こういう人を、「きれい」と表現するのだと、直太に言うと、彼は何か言いたそうに口を開いたが何も言わなかった。あれは何を言いたかったのだろう。金沢を紹介したのは二年以上前のことで、あの後、聞き出すことをすっかり忘れていた。
 長いまつげの上あたりを擦りながら、金沢が隣に腰を下ろす。
「眠そうですね」
「うん、昨日は激しかったから。そっちも?」
 見た目とはちがい、金沢は生々しい話も普通に振ってくる。いまだに慣れなくて戸惑うと、彼が笑い声を上げて、「可愛いなぁ」とつぶやいた。
「今度、パンケーキ食べる?」
「パンケーキですか?」
「おいしい店、見つけた。湘南。車、出すから来る?」
「土曜でいいですか?」
「いいよ。じゃあ、十二時くらいに迎えに行く」
 金沢は立ち上がり、裏道を抜けて店の前へまわる。彼は変わっているが、夏輝にとっては東京で初めてできた友達だった。互いの恋人が同性であることは、すぐに分かった。飲みに誘われた時、夏輝はまだ未成年で、それを理由に断れば良かったのに、「怖い」と言ってしまった。彼はあれ以来、夏輝が二十歳になっても、飲みに誘わない。
 冷めてしまったみそ汁を飲み、店へと戻る。仕事と大切な人との生活と友人と呼べる存在があり、夏輝はとても満たされていた。



番外編1 番外編3

just the way you are top

main
top


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -